はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と二十二
「ミノガサナイ!」①
短編のドキュメンタリー番組を、なんとなく見ていた時のこと。インフラ整備の現場で、ある一人のベテラン作業員がもらしたその呟きが、一つの教訓として、戒めとして、僕のこのあたりにへばり付いたままだ、と、右の拳で左胸を、数回、小さく叩く素振りを見せながら、ユルリと語り始めたAくん。
いつもながらの唐突感は歪(イナ)めないものの、実に興味深い幕開けである。
はたして、その、教訓として、戒めとして、へばり付いたままの呟きとは、いったい、ナンなのだろう。
「その呟きとは、ナンだったのですか」
私の問い掛けにAくんは、力強く、端的に、答える。
「絶対に見逃さない」
ん?、絶対に、見逃さない?
「どんな些細な変化も、極めて微小な誤差も、そして、招かれざる想定外も、絶対に見逃さない、みたいなことを、小さな声でではあるものの、目一杯、強い意志を放ちながら、彼は、宣っていたわけよ」
なるほど。
「現場魂、というか、職人魂、というか、ビリビリと伝わってきますよね」
「伝わってくるよね~。ホントに、ビリビリと伝わってくる」
Aくんの、この、「現場魂」やら「職人魂」やらを充分に感じさせてくれる話が、ココからどう展開するのか。更に一層、ワクワク感が、ボワンボワンと膨らんでくる。(つづく)