ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.120

はしご酒(2軒目) その二十二

「シュッセ グラッセ フィナンシェ」

 Aくんは、(教育現場のみならず、教育行政までをも丸ごと含む)教育界には、「評価されたい」とか「出世したい」とかといった、俗な欲も、邪念も、そもそもが御法度なのだ、と、かねてから繰り返し繰り返し言い続けている。頑張って取り組んできたその結果として(本人の意思とは関係なく、不本意ながらもシモジモじゃないエライ人たちによって勝手に)評価される、の、なら、まだしも、自ら、そんな欲に、邪念に、まみれまくりながら教育に携(タズサ)わることなど、まず、ありえない。と、いつだって、この話題になると語気を強める。

 とくに教育行政に携わる方々は、末端の教育現場以上に、そういう欲と邪念の沼にズルズルと引き込まれやすい傾向にある、と、警鐘を鳴らす。

 どうしても、教育現場から遠い、子どもたちから遠い。教育現場が見えにくい、子どもたちが見えにくい。ゆえに、よほどシッカリしたものをガチッともっていない限り、教育現場から、子どもたちから、学校教育そのものから、気持ちがドンドンと離れ、やがて、その視線は自分自身へ、シモジモじゃないエライ人たちへ、と、向いていく。と、いうコトであるらしい。

 もちろん、そんなコトであってほしくはないが、仮に、Aくんのその指摘通りだとしたら、この国の教育は、教育の未来は、間違いなく絶望的だと言わざるを得ない。

 「それほどまでに『出世』とは、甘くて、美味しくて、トロけてしまうようなモノなのでしょうか」

 すると、それまで黙って聞いていた(ように見えた)Oくん、突然、堰(セキ)を切ったように、声高に叫ぶ。

 「シュッセ、グラッセ、フィナ~ンシェ!」

 しゅ、出世、グラッセ、フィナンシェ?

 「出世も、グラッセも、フィナ~ンシェも、ドレも皆、甘ったるいっちゅ~こっちゃ」

 あ~。たしかに、ドレもコレもトテツもなく甘そうだ。

 「せやけどな、そんなもんでは絶対に、ホンマもんの旨い酒は呑めまへん。そのコトだけは忘れたらアカン」

 そんなもんではホンマもんの美味い酒は呑めない、か~。

 ・・・深いな。

(つづく)