はしご酒(2軒目) その二十二
「シュッセ グラッセ フィナンシェ」
Aくんは、(教育現場のみならず、教育行政までをも丸ごと含む)教育界には、「評価されたい」とか「出世したい」とかといった、俗な欲も、邪念も、そもそもが御法度なのだ、と、かねてから繰り返し繰り返し言い続けている。頑張って取り組んできたその結果として(本人の意思とは関係なく、不本意ながらもシモジモじゃないエライ人たちによって勝手に)評価される、の、なら、まだしも、自ら、そんな欲に、邪念に、まみれまくりながら教育に携(タズサ)わることなど、まず、ありえない。と、いつだって、この話題になると語気を強める。
とくに教育行政に携わる方々は、末端の教育現場以上に、そういう欲と邪念の沼にズルズルと引き込まれやすい傾向にある、と、警鐘を鳴らす。
どうしても、教育現場から遠い、子どもたちから遠い。教育現場が見えにくい、子どもたちが見えにくい。ゆえに、よほどシッカリしたものをガチッともっていない限り、教育現場から、子どもたちから、学校教育そのものから、気持ちがドンドンと離れ、やがて、その視線は自分自身へ、シモジモじゃないエライ人たちへ、と、向いていく。と、いうコトであるらしい。
もちろん、そんなコトであってほしくはないが、仮に、Aくんのその指摘通りだとしたら、この国の教育は、教育の未来は、間違いなく絶望的だと言わざるを得ない。
「それほどまでに『出世』とは、甘くて、美味しくて、トロけてしまうようなモノなのでしょうか」
すると、それまで黙って聞いていた(ように見えた)Oくん、突然、堰(セキ)を切ったように、声高に叫ぶ。
「シュッセ、グラッセ、フィナ~ンシェ!」
しゅ、出世、グラッセ、フィナンシェ?
「出世も、グラッセも、フィナ~ンシェも、ドレも皆、甘ったるいっちゅ~こっちゃ」
あ~。たしかに、ドレもコレもトテツもなく甘そうだ。
「せやけどな、そんなもんでは絶対に、ホンマもんの旨い酒は呑めまへん。そのコトだけは忘れたらアカン」
そんなもんではホンマもんの美味い酒は呑めない、か~。
・・・深いな。
(つづく)