ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.570

はしご酒(Aくんのアトリエ) その十一

「ワンパク バンパク タンパク」②

 それならそれで、と、気持ちを、眼前の、冬の味覚の渾然一体型発酵食品である「かぶら寿し」に、切り替える。

 コレは、以前から存じ上げている。一切れ、口に運ぶ。この、調和の取れた安定の美味しさは、酒の肴、アテとしても、完璧だ。

 などと、舌鼓を打っていると、そんな、絶品かぶら寿しとは、おそらく、なんの関係もなく、なぜか、私の中で眠っていたEXPO'70のキーワードの幾つかが、パッパッパッパッと浮かび上がってくる。そうして浮かび上がってきたものの中で、ひときわ燦然と光彩を放つのが・・・。

 「岡本太郎岡本太郎ですよね。私は、岡本太郎に尽きると思います。岡本太郎亡きあとには、もうEXPOなんてあり得ない。ということなんじゃないんですか」、と、思ったことをそのまま、あまり深く考えることなくストレートに、口に出してみる。

 「岡本太郎か~・・・。そうだな、そうだと思う。そして、岡本太郎を中核に据えた運営組織の懐(フトコロ)の深さもまた、特筆すべきことだったんだろうな」

 「お会いしたことがないのでナンとも言えませんけど、あの、芸術は爆発だ!、の、方でしょ。そう簡単には、上層部の思い通りになりそうにない、感じですもんね」

 「その、ワンパク感が堪(タマ)らなかったのかもしれないな」

 「さらに、ソコに投入された、別種のワンパク感の極みとの誉れ高い、あの、三波春夫が声高らかに歌い上げた、♪世界の国からこんにちは、も、また、ブッ飛んでいたわけでしょ」

 「ブッ飛んでたよな~、ホントにブッ飛んでいた。そういったワクワクするようなワンパク感が、無難に、とか、忖度、とか、露骨なまでの経済優先、とか、で、まみれにまみれて、すっかり、ワンパク感どころか、魂が希薄なタンパク感丸出しの、そんな寂しげなものに、しか、なれなくなってしまった。というところこそが、この、現代社会にへばり付く、宿命であり限界であるのかもしれないな」

 そう、ズンと重く呟いたそのあとでAくん、突然、あの、三波春夫の如く声高らかに歌い出したものだから、かなり驚いてしまう。

 

 こんにちは~こんにちは~笑顔~あふれる~

 こんにちは~こんにちは~心の~そこっから~

 こんにちは~こんにちは~世界を~むす~う~ぶ~

 こんにちは~こんにちは~日本の~国~で~

 せんきゅ~ひゃくっななじゅ~ねんのっ、こ~んにっちっは~

 こんにちは~こんにちは~握手を~しっよっお~

 こんにちは~こんにちは~握手を~し~よ~お~

 

 「ラスト数行の、ここのこの歌詞が好きなんだ。進歩なんてもののその前に、まずは調和なんだよ、調和。わかるかな~」、と、実にいい感じに高揚した表情のAくん。

 一瞬、Aくんと、太陽の塔の、あの、未来を象徴しているという黄金の顔とが、チカチカッとシンクロしたような気がした。(つづく)