ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.766

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と七

「オオクヲ ノゾンデハイケナイ」

 いくら、それなりの地位を獲得しているように見えていても、思っているほどその土台は堅牢ではなく、不安定で脆(モロ)い、みたいなことを、ある元芸能人の方が宣っていた。

 おそらく、だからこそ彼らは、彼女らは、「色」がつくことを、必要以上に恐れるのかもしれない。

 「芸能人もタイヘンだ、って、思うことがあります」

 「芸能人が、タイヘン?」

 「本当の自分なんて、そう簡単には出せないでしょ」

 「出せないかもな。ナニかの弾みで、自分を、表現者などと思ってしまったら、そりゃ、タイヘンなことになりそうだ」

 「仮に、もし、全ての忖度をかなぐり捨てて、自分の思いに正直に、表現者道を突き進んだとしたら、仕事は激減してしまうでしょうね」

 「とくにTVは、ダメだな。コマーシャルなんて、もう言語道断」

 「中でも、それが、政治的な臭いのするものだとすると、色がつく、どころか、致命的な烙印まで押されてしまって、息の根を止められることにだって、なりかねないわけでしょ」

 「僕らが思っている以上に弱い立場である芸能人たちに、多くを望んではいけない、ということだな」

 「それでも、インフルエンサーとして、かなりの影響力がある。本意ではないけれど、致し方なく、権力と金を握るシモジモじゃない誰かに、上手い具合に利用されてしまう、などということも」

 「あるだろうな、もちろん。だからこそ、政治的なものやらナンやらから距離を置き、いかなる色もつけないようにしておく、という選択肢も、防衛策として賢明だとは思う」

 しかしながら、そんな中でも、色がつくことも、ついてしまうことのリスクも、恐れず、弱き者たちのために声を上げる芸能人の方々もおられる。ご多分に洩れず、案の定、「ナニさま?」的なバッシングが後を立たない。

 その度に、Aくんも私も、ナニもすることができないもどかしさに、心がズンと重くなる。(つづく)