ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.739

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十

「マンマル!」

 先ほどの万年筆のマイホームであるアルミ製の角皿に、なぜか、少し大きめのビー玉が一つ、鎮座している。

 「深く澄んだ色味のビー玉ですね。このビー玉にもナニか曰(イワ)くがあったりするのですか」

 「ないない、ナニもない。でも、ウンと昔からある、かな」

 ビー玉、か~。

 ビー玉。

 ビー玉。

 ・・・

 そういえば。

 ・・・

 ある旅先でのコトを思い出す。

 随分と昔の、私が、まだギリギリ学生であった頃の、記憶だ。

 奄美大島だったかドコだったか、ハッキリとは覚えていないが、旅先で、やたらと早く目が覚めて、よせばいいのに、私だけ、早朝ランニングと酒落込んだのである。

 最初のうちは、さすがに軽やかで、中学生の時は陸上部だったんだぜ感を全身から放ちながら、ご機嫌に疾走していたのだけれど、15分も経つと、一気に、歩幅は狭くなる、膝は上がらない、のに、息は上がる、みたいな、そんな、みっともないランニングフォームに変容してしまう。

 もうダメだ、と、まさにギブアップ宣言をしようとしたその時、ものすごく気持ちのいい風が汗ばんだ顔を舐めていく。その風に誘われるようにして道を外れて進んでいくと、小振りの砂浜に辿り着く。ソコにいるのは私だけで、まさに貸し切り状態。そして、ソコは、ホントに最高に美しい砂浜であったわけだ。

 では、なぜ、ソコを、ソレほどまでに美しいと、思ったのか。

 それは、普通の砂浜だと思っていたその砂浜が、よくよく見ると、真ん丸の黒いビー玉のような石でビッシリと敷き詰められていたから。しかも、寄せては引き、引いては寄せる波に、コロコロと前後に転がりながら、キラキラと、キラキラと、艶っぽく黒く光ったりする。

 それぐらい、ソレたちは、目が眩むほど長い年月をかけて、スッカリと角が取れ、気持ちいいぐらい真ん丸であったのである。

 でも、あまりにも真ん丸だったものだから、なぜか私は、その時、そんな真ん丸な石に、嫉妬していた。そんな、真ん丸な人間に、私も、なれたらいいのに、と、嫉妬していたのである。

 そして、誹謗中傷やらバッシングやら三昧の、こんな、角張りまくった今だからこそ、尚のこと余計に、目一杯、そう思うのだ。(つづく)