はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と七十九
「ブレイクスルー!」
かわいそうなんだよな~、と、いつもながらの唐突さ、と、わけのわからなさ、で、Aくん。
「誰が、かわいそうなのですか」、と、ほんの少しだけつっけんどんに、私。
「ブレイクスルー(breakthrough )」
「はい?」
「かわいそうというか、不憫(フビン)というか」
「ブレイクスルー、が、かわいそう?、不憫?」
「そう、そういうこと」
ココにきて、ナンとなく巷を賑わしている、あの、ブレイクスルー、の、ドコが、ナニが、・・・。
私が知る限り、そのブレイクスルー、鉄壁のガードが打ち破られて、不本意ながらも、如何ともし難いダメージを喰らう、という、そういうイメージ。ソコに同情する余地など微塵もないように思えるが。
「申し訳ありませんが、ブレイクスルーには、してやられた、というイメージしかありません。なぜ、そんなモノにソコまで同情されるのか、ちょっと納得し難いです」
Aくんの瞳がキラリと、いや、ギラリと光る。
「本来、ブレイクスルーは、ベビーフェイス系の、ヒーロー系の言葉だと言っていい。目の前に立ちはだかる、努力してもナニをしても、なかなか打ち破れなかった壁を、ナニかの弾みで、突然、乗り越えられたその瞬間こそが、ブレイクスルー。ブレイクスルーあってこそのネクストステージへのステップアップなわけ。この感じ、わかるかい」
ん?
ベビーフェイス系?
ヒーロー系?
「僕が、ココで言いたいことはね、つまり、見る側を変えれば、同じモノが、悪玉にも善玉にもなり得る、ってこと」
「ブレイクスルーがそうであるように、ですか」
「そう、ブレイクスルーがそうであるように、だ。コレって、あの、正義、に、さえも、当てはまったりするわけ。正義でさえも、見る側を変えた途端に、突然、悪役マスクを被ってヒール(悪玉)に、なんてことも、充分にあり得る、ということだ」
コチラ側にとっての正義が、アチラ側にしてみれば、不義、だということは、たしかに、この星のそこかしこであるような気がする。だからこそ、愚かなる悲劇は、何度も何度も繰り返されるのだろう。(つづく)