ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.719

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と六十

「ホンモノノワル ハ ツカマラナイ」

 捕まったことが悪いのか、それとも、捕まるようなことをしたことが悪いのか。似ているようにも見えるこの両者の間には、天と地ほどの隔たりがある、ということを、ほとんどの人は気付いていないんじゃないかって思うんだよな、とAくん。

 さすがにコレについては、自信をもって即座に答えることができる。

 「逮捕、されようが、されまいが、悪(アク)は悪(アク)、でしょ」

 「というか、あの、三島由紀夫だったかな、ハッキリとは覚えていないんだけれど、たしか、ホンモノの悪(ワル)は捕まるようなヘマはしない、みたいな、そんなことを言っていた、と、思う」

 さすが、三島由紀夫。その独特な切り口が、いい。

 「興味深いですね、その指摘」

 「深い深い。見事なまでに核心を突いている、とは、思わないかい」

 思います、思いますとも。

 「つまり、ホンモノの、根っからの悪(ワル)は、痴情のもつれ、とか、怨み、とか、嫉妬、とか、怒り、とか、恐れ、とか、あるいは、興味本位、とか、で、自らの手を汚して、失敗(シクジ)る、みたいなことは、絶対にしない、ということですね」

 「そういうこと」

 「ということは、ホンモノの、根っからの悪(ワル)は、ノホホンと、ヘラヘラと、その辺りを闊歩している、と」

 「闊歩してる、してる、しまくってる」

 そんなやり取りをAくんとしているうちに、突然、なんだか妙に切ない気持ちになる。

 ひょっとしたら、ホンモノの、根っからの悪(ワル)たちに比べれば、全然、悪(ワル)でもナンでもない、どこにでもいるような、そんな一般ピーポーであったにもかかわらず、ナニかの弾みで悪魔に心を掻き乱され、奪われ、狂わされ、挙げ句の果てには、犯罪に、自らの手を染めてしまった、などということも、それほど珍しいことではないのかもしれない。(つづく)