ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.668

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と九

「ピンチ ガ チャンス ト ツキ ト スッポン」

 いかなる逆境も、新たなる成長、変革、の、ビッグチャンスになり得る、という、戒めなのか、励ましなのか、慰めなのか、はたまた、暗示なのか、その真意のほどは僕にはわからないけれど、とにかく、そんな逆境系の名言が、あの、「ピンチがチャンス!」だ、とAくん。

 Aくんが、あえてもち出してくるぐらいだから、あの、ピンチがチャンス、にも、そのドコかに問題があるということなのだろうか。皆目見当すらつかない私は、「ピンチをチャンスに変える力こそが賢者の証(アカシ)だと思いますが」、と、感じた素直な気持ちをそのままぶつけてみる。

 「その通り、賢者の証だ。でもね、賢者も大きく二手に分かれる」

 「二手に、ですか」

 「そう、二手に、だ」

 もともと、賢者という言葉に、いい印象ばかりを抱いていたわけではないので、Aくんのその指摘に対して頭ごなしに「なんだ、ソレ!?」ということにはならなかった。いわゆる、ワル賢い、ズル賢い、というヤツのことなのだろう。

 「ピンチによって弱った、傷んだ、人の、組織の、状況の、その部位に、寄り添うのではなく、つけ込む。この、寄り添う、と、つけ込む、の、両者の間には、まさに、月とスッポンほどの違いがある」

 月とスッポン、か~。

 このところ、めっきり耳にしなくなった言い回しであるように思える。そもそも、月もスッポンもどちらもいい。月はキレイだし、スッポンは美味い。そんなこんなで、月とスッポン、の、絶滅危惧種入りのその日も、かなり近いかもしれないな。

 などと、「ピンチがチャンス」から「月とスッポン」への、実にいい加減な逸脱をしかけていると、Aくん、「ピンチがチャンス!、には、あの、近江商人の経営哲学である、三方よし!、が、不可欠だと僕は思っている」、と。

 今宵のウダ話のそこかしこでも、三方よし、は、何度か登場している。

 買い手よし。

 売り手よし。

 この世の中、よし。

 Aくんは、ピンチをチャンスに変えるときだからこそ、その、三方よし、を、忘れてはいけないんだ、ということを、あえて言おうとしているのかもしれない。

 「ピンチなんだからタイヘンだとは思うよ、思うけれど、人の、組織の、状況の、その弱みにつけ込むような、そんなピンチがチャンス!、というヤツだけは、絶対にダメだと思うんだ」

 なるほど。

 ようするに、やっぱり、月もスッポンもドチラも、良くないとダメなんだ、と、いうことなのだろうな、きっと。(つづく)