ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.698

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と三十九

「ホシガリマセンカツマデハ フタタビ」

 先ほどの、Aくんが宣うところの「欲しがりません勝つまでは」、が、なぜか、というか、やはり、というか、時間を追うごとに、消化されるほん手前の小腸あたりの柔突起に、引っ掛かり出したものだから、ココは思い切って、牛の反芻(ハンスウ)のごとくもう一度、ぶり返してみせる。

 「先ほどの、欲しがりません勝つまでは、が、どうしても、どうしても引っ掛かって仕方がないのですが」

 「どのあたりが?」

 「その言葉の全体から滲み出てくる怪しさみたいなモノが、なかなか払拭できないのです」

 「あの言葉って、有事の最終兵器、みたいなモノだからな~。そんなモノを平時に、平時の感覚で、平時の考え方で、納得なんて、できるとは、僕だって、微塵も思ってはいないけどね」

 Aくんにしては、かなり、歯切れが悪いモノ言いである。

 「でも、平時の感覚で、考え方で、納得できないモノは、どこからどう見ても、どう考えても、やっぱり、怪しいのではないですか」

 「なるほど、正論だな」

 「そもそもソレって、誰が誰にナンのために強要するモノなのですか」

 「もちろん、シモジモじゃないエライ人たちが、シモジモであるエラクナイ一般ピーポーに、全体のために、だな」

 「じゃ、なぜ、そんなモノを強要しなければならなくなったのです?」

 「ん~、・・・、一概には言えないかもしれないけれど、権力を握るシモジモじゃないエライ人たちによる愚策ゆえ、かな」

 「ということは、愚かなるシモジモじゃないエライ人たちの愚策の尻拭いを、シモジモであるエラクナイ一般ピーポーに強要する、ということになりますよね」

 「場合によっては、と、いうことに、なる、かな、なる、ね、なる」

 なぜか、どうも歯切れが悪いままのAくんに、私までもが珍しく、普段の5割増しほどヒートアップしてしまい、吠えに吠える。

 「おかしくないですか、おかしいですよね、ソレって、おかしいでしょ!」

 酔いの力も大いに借りて、思いっ切りぶり返してみせてはみたものの、一層、柔突起の働きが悪くなったような気がして、ただただ虚しくなり、ドッと疲れ果てる。(つづく)