はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と三十九
「ホシガリマセンカツマデハ フタタビ」
先ほどの、Aくんが宣うところの「欲しがりません勝つまでは」、が、なぜか、というか、やはり、というか、時間を追うごとに、消化されるほん手前の小腸あたりの柔突起に、引っ掛かり出したものだから、ココは思い切って、牛の反芻(ハンスウ)のごとくもう一度、ぶり返してみせる。
「先ほどの、欲しがりません勝つまでは、が、どうしても、どうしても引っ掛かって仕方がないのですが」
「どのあたりが?」
「その言葉の全体から滲み出てくる怪しさみたいなモノが、なかなか払拭できないのです」
「あの言葉って、有事の最終兵器、みたいなモノだからな~。そんなモノを平時に、平時の感覚で、平時の考え方で、納得なんて、できるとは、僕だって、微塵も思ってはいないけどね」
Aくんにしては、かなり、歯切れが悪いモノ言いである。
「でも、平時の感覚で、考え方で、納得できないモノは、どこからどう見ても、どう考えても、やっぱり、怪しいのではないですか」
「なるほど、正論だな」
「そもそもソレって、誰が誰にナンのために強要するモノなのですか」
「もちろん、シモジモじゃないエライ人たちが、シモジモであるエラクナイ一般ピーポーに、全体のために、だな」
「じゃ、なぜ、そんなモノを強要しなければならなくなったのです?」
「ん~、・・・、一概には言えないかもしれないけれど、権力を握るシモジモじゃないエライ人たちによる愚策ゆえ、かな」
「ということは、愚かなるシモジモじゃないエライ人たちの愚策の尻拭いを、シモジモであるエラクナイ一般ピーポーに強要する、ということになりますよね」
「場合によっては、と、いうことに、なる、かな、なる、ね、なる」
なぜか、どうも歯切れが悪いままのAくんに、私までもが珍しく、普段の5割増しほどヒートアップしてしまい、吠えに吠える。
「おかしくないですか、おかしいですよね、ソレって、おかしいでしょ!」
酔いの力も大いに借りて、思いっ切りぶり返してみせてはみたものの、一層、柔突起の働きが悪くなったような気がして、ただただ虚しくなり、ドッと疲れ果てる。(つづく)