ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.636

はしご酒(Aくんのアトリエ) その七十七

「カンコゥ カンコゥ ナ イ テ ル~」

 以前から、「観光」という言葉に、ピンとこない、というか、解(ゲ)せない、というか、とにかく、違和感も抵抗もある。

 そもそも、観光、って、ナンだ。

 観光立国、って、いったい、ナンなのだ。

 そんな思いを払拭できないまま、観光地なるものに目を向ければ、露骨なまでにインバウンド狙いの店舗、施設、そして、オキテ破りの陳腐な開発もどき、と、ソコには、私ごときの頭では、到底、理解などできそうにないナゾが渦巻いている。

 観光立国のその意味が、インバウンド立国ということであるのならば、悪いことは言わない、できる限り早い内に、そんなものは返上したほうがいい、とさえ思っている。

 そんな私の胸の内を、Aくんに負けないぐらいの唐突さで、ストレートにぶつけてみる。

 「観光って、ナンだと思いますか」

 「観光ね~、・・・、最低限の礼節をわきまえた上での文化の覗き見、かな」 

 「礼節をわきまえた上での、文化の覗き見、ですか」

 「そう。道徳観も倫理観も、その国の文化だからな。最低限の礼節さえもわきまえない下品な覗き見は、やはり許されないだろ」

 訪れる側の心構えとしては、的を得ているように思える。しかし、招く側としては、どうだろう。

 「そのもう一方の、覗き見される側として、ココだけは譲れない、みたいなことって、ないですか」

 「覗き見される側かい?」

 「はい、覗き見される側の心構えです」 

 「そうだな~、・・・、本来ソコにあるものを、軽々しく弄(イジ)ったりしない、かな」

 「軽々しく弄らない、ですか」

 「そう、弄らない。本来ソコにあるものを求めて、人はやってくるわけだろ。その、本来ソコにあるものを、たとえば、インバウンド目当てに弄るなどということは、本末転倒もイイところ。守るべき文化は守らなければならない、ということだ」

 なるほど、おっしゃる通りだ。

 するとAくん、またまた突然、声高らかに歌い出す。

 

 カンコゥッ カンコゥッ

 しずかに~

 ないてる~よ もりのな~か

 ホ~ラ ホ~ラ あさだよ~

 カンコゥッ

 

 「もちろん、さんずいへん、の、泣く、ね」

(つづく)