ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.635

はしご酒(Aくんのアトリエ) その七十六

「べラボ~ブラボ~コラボ~」③

 「ナントカ山にナントカさんの作品があるから行ってみるといい、って言うわけよ。ある、いい感じの若い、といっても四十そこそこぐらいかな、の、作家さんが」、とAくん。

 「で、見に行かれたのですか」

 「行った、行った、山道を歩いて行ったよ」

 「で、どんな作品だったのですか」

 「ん~、パッと見は、難解そうな風情なんだけれど、規則正しくツミツミしていたり、ダイナミックにクルクルしていたり、と、その難解さを軽くポンと飛び越えてくれるような、そんな、実に面白い立体作品だったんだよな」

 ケータイで写真をパシャパシャと撮るようなAくんではないので、その言葉から想像するしかないのだけれど、どういうわけか、その作品が見えてくるような気がするから不思議だ。

 「ソコでミーティングをしているんだよ、年配のドイツ人男性と、作業服を着た地元の土木建築関連風のおじさんたちが。さすがにドイツ語で、というわけにはいかなかったみたいなんだけれど、片言の英語やら少し訛(ナマ)り気味の日本語やらで、やっているわけさ、山の上で、まだまだ未完成の作品の前で」

 ナンの下調べもせず、全くの偶然に、そうした地方のアートフェスティバルみたいなものに遭遇してしまうAくんの神がかり的な底力には、ホントに感服する。

 「話されたりしたのですか」

 「あ~、したした。若いときに一ヶ月ほどドイツを一人旅したことがあったからね・・・、得意の日本語で」

 どこかの新喜劇なら、ココでドテッとズッ転けないといけないところなのだろうけれど、とにかく、そのドイツ人のおじさんは、3ヶ月ほど前にこの町に入り、制作し続けてきたらしく、その間、地域の人たちとも数多の交流を行ってきた、と、日本語と英語とのクロスオーバーで、丁寧に説明してくれた、という。

 そしてAくんは、まさに確信を得たかのように瞳をピカピカッとさせながら、こう言い放つ。

 「これなんだよ、これ。べラボ~にブラボ~なコラボ~って、まさに、こういうことなんだ。単なる、観光客を呼び込むための一過性のアートフェスティバルなんじゃなくて、地域を思いっ切り巻き込んで、絡み合わせて、有機的にミキシングさせて、みたいな、そんな、いい意味でネバネバッとしたところ、から、生まれてくるものって、あるだろ、ある、あるんだよ」

 もう、Aくん独特の言い回しでホントにわかりにくいのだけれど、ある、間違いなくある、と、私も思う、思いたい。

 トンでもないヤツが、コトが、忍び寄ってきがちな、それぞれがもっている弱点を、補い合うどころか、ジワジワと高め合っていくような、そんな未来を感じさせてくれる、まだ見ぬその山あいの小さな町に・・・

 カンパイ!

(つづく)