ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.558

はしご酒(4軒目) その百と百と九十九

「ゼゼヒヒヒヒヒ・・・」

 是々非々、という、日常生活では、ほとんど使われることのない、聞き慣れない、言葉があることを、ご存知か、とAくん。

 「一応、存じ上げてはいますが、たしかに、使いませんね」、と私。

 「使わないよな~。家庭でも、学校でも、職場でも、まず使わない」 

 そんな、ほとんど使われていないような「是々非々」の、いったいナニを、Aくんは、語ろうとしているのだろうか。ほぼ毎度のことながら、見当すらつかない。

 「是々非々が、ナニかトンでもないことでも、しでかしたのですか」

 「是々非々が、勝手にナニかトンでもないことをしでかす、なんてことはない。のだけれど」

 「のだけれど?」

 「この、是々非々を、交渉の戦略的ツールとして、駆け引きの道具として、使うことの、危うさ、みたいなものは、ずっと以前から、抱き続けている」

 交渉の戦略的ツール?

 自分なりに猛スピードで考えてみたことを、そのままザックリと、Aくんに宣ってみる。

 「己の、意見を通すために、それほど納得はしていない相手の意見でも、ま、こっちの意見に賛同してくれるなら、考えてやってもいいかな、みたいな、そういう感じで、是々非々、を、上手い具合に都合よく、利用しようとしている、と、するならば、それは、やはり・・・、ということですか」

 「ん~、・・・、一般ピーポーならまだしも、大いなる責任を担う、権力を握る、シモジモじゃないエライ人たちが、そういうことを、は、やはり・・・、ということだ」

 そんな、微妙な噛み合い具合のやり取りをしているうちに、一般ピーポーが、日常生活の中で、是々非々、などという言葉を、そう易々とは使わない、その理由が、なんとなく、ボンヤリながらも見えてくる。

 すると、聞き逃してしまいそうなぐらい、とても小さな音量だけれど、なんとも不気味な笑い声が、不意に、ゼゼヒヒヒヒヒ・・・、と、どこからともなく聞こえてきたような気がしたものだから、少なからず、ゾワッとする。(つづく)