はしご酒(4軒目) その百と百と百
「ゴチソウサマ」
まだ時間があるなら、・・・、僕のアトリエに来るかい、と、唐突に、Aくん。
「えっ」、と私。
「あまり長居しても、女将さんに悪いからな、どうだい」
先ほどの、以前は、芝居小屋であったであろう、古びた、あの、アトリエだ。興味と期待とが、一気に私の頭の中で充満する。
「いいんですか」
「いいよ」
よし、決まりだな、と、Aくん、支払おうとする私の、その財布から、千円札を一枚だけ抜き出すと、そそくさと勘定を済ませる。
女将さんが、ナニやらもたせてくれる。それもまた、頭の中で充満した興味と期待に、チロリと色を添える。
女将さんがステキだということもあるのだろう、いい店だな~、と、心の底から、素直に、そう思う。
そんな気持ちをソックリそのまま、「ごちそうさま」、に、目一杯込めてから、Aくんを追うようにして、慌ただしく、店を出る。
すでにAくんは、10mほど先を、トトトトトッと歩いていたが、短い小走りで、すぐに追い付く。
来た道を逆に歩く。景色も空気も違うように感じる。不思議だ。
そんなことを、アレコレと思いながら歩いていると、目の前に、あの古びた建物が、再び現れる。
Aくんは、私を外に待たせ、その錆び付いた鉄製の大きなドアを開けて、中に入る。
パパパパパッと、数回、点滅したかと思うと、そのあと、パッと、青白い光が外に漏れる。
青白い光なのに、なぜか、妙に温かく感じる。このこともまた、不思議だ。(つづく)