ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.499

はしご酒(4軒目) その百と百と四十

「ビトク ノ オトシアナ」①

 僕が、けっこう使う言葉の一つに、「美徳(ビトク)」がある、とAくん。

 たぶん、悪い意味で使ったことはない、と宣う。

 ただ、このところ、どうもその美徳に、ナニやらモヤのようなものがかかり始めた、と訝(イブカ)る。太古から、DNA に刷り込まれてきたかのような、この国の美徳の、このところの有りようが、どうも気になって仕方がない、らしい。

 もちろん私には、ナンのことやら、サッパリ、わからない。

 「この国の美徳が、ヤヤもすると、感情に、思いのほか支配されている、という思いが、僕にはある。のだけれど、この感じ、わかる?」

 申し訳ないけれど、ヤッパリ、わからない。

 「わからないです」、と私。

 「わからないか~、そりゃそうだな、無理もない」、とAくん。

 アッサリと、無理もない、などと言われてしまうと、なんだか少し悔しい気分になる。その悔しさが、私の背中を押したのだろうか、わからないなりに思い付いたことを、そのまま口から発してしまう。

 「コトの善悪ではない、ということですね」

 私がポロリと発したことが、よほど意外であったのか、そんな表情をチラリと見せたAくんは、軽く一つ、咳払いをしたあと、ユルリと語り始める。

 「そう言い切るには、少し抵抗はあるけれど、この美徳が、たとえば、コトの検証の、真相の究明の、その足を引っ張る場合がある、とは思っている」

 検証?、究明?、足を引っ張る?、・・・、ますますヤヤこしい。(つづく)