ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.438

はしご酒(4軒目) その百と七十九

「ヨウカイ ヒトリガッチガチ コウリン」②

 その思いが、伝わったからなのかどうかはわからないが、しばらくして、ようやく、ボソリと口を開くAくん。

 「たしかに、その瞬間だけを捉えれば、等しく皆に、じゃないように見えるかもしれない」

 いい感じのプロローグだ。おそらく、ここから一気に、天下無双のAくん節が、炸裂するに違いない。私の期待は大いに膨らむ。

 「等しく皆に試練を与えるがために降臨する神さまの、その後ろ側で、誰にも気付かれないように、コッソリと便乗降臨を試みる、姑息な妖怪、ヒトリガッチガチ。コイツが厄介なんだよな」

 出たな、妖怪、ヒトリガッチガチ。

 「で、その厄介な妖怪、いったいナニモノなんですか」

 「神さまが与えたもうたその試練を、真っ向から受け止め、工夫し、正攻法で次の一手を、一歩を、踏み出すことに、気持ちが向かわない人たちの、その心の隙間に棲み着いて、囁くわけさ。皆が弱っているときこそが、チャンス。周囲の生き血を吸い尽くすが如く、一人勝ち。そのためならナニをやったって、バレなきゃ、大丈夫、大丈夫、大丈夫、ってね」

 聞けば聞くほど恐ろしくなってくる。

 「けれど、所詮は姑息な妖怪の所業、そんなものがホンモノの幸せに繋がるはずもなく、結局、大切な多くのものを失うことになる、と、僕は思っている」

 熱きAくん節が、ストンストンと腑に落ちまくる中で、私は、ある町の、様々な業種の方々による、ある取り組みのことを、フワンと思い出す。

 予測を遥かに越えるトンでもないことが起こり、それぞれが抱える脆弱な部分が炙り出される。ニッチもサッチもいかなくなろうとした、まさにそのとき、それぞれがもつ小さき強みを結集すれば、ひょっとしたら、炙り出された弱点をも払拭できる大きなパワーを、生み出せるかもしれない、と、そう思えた、その途端に、次の一手が、一歩が、踏み出せた、と言う。

 少なくともその町には、姑息な妖怪、ヒトリガッチガチ、ごときが、容易に降臨できる隙間など、おそらくはどこにもないのだろうな、などと、なんとなく思ったりする、私なのである。(つづく)