ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.433

はしご酒(4軒目) その百と七十四

「ムネン!」④

 「どうしようもないほど大きく、そして、重くのしかかってくる、からこそ、無念、なのだと思う。そうでなければ、人は、ソレを、無念、とは言わんだろう。なのに、にもかかわらず、はからずも、人は、どうにかして晴らそうとする。それを、人間らしさ、と、宣う方もおられるかもしれないけれど、わからないわけではないけれど、しかし、そのことによって、間違いなく無念は、さらに重く、ダークに膨らむ」、と、語り続けるAくんは、一体、どこに向かって飛び立ち、そして、どこに着地を試みようとしているのだろう、と、少々心配にさえなってくる。それほど、Aくんの「ムネン!」論は、タダならぬほどの絶望的な臭いを放っているように、聞こえてくるのである。

 さらに、Aくんの「ムネン!」論は、低空飛行のまま続く。

 「僕が最も危うく思うものは、無念を晴らす、ことの、その、はけ口が、本人以外のナニかに、ナニものかに、向かうのではないか、という、まさに、ソコ、に、ある。晴らすものではないものを、無理やり晴らそうとすることによって、内なる悪魔が目を覚ます、そんなイメージだな」

 内なる悪魔か~、・・・なるほど、Aくんが言わんとするものが、おぼろげながら、なんとなく、見えてきたような気がする。

 「だからといって、無念を背負う、というのでもなくて、むしろ、無念を、己の肉体の一部にする、かな。そちらのほうが、僕が思うものに近い気がする。とてつもなく辛いことだけれど、善良なる一般ピーポーは、皆、無意識のうちに、そうしているように思える。だからこそ人は、ナニがあろうとも、どんなに辛くても、この今を、自分らしく生きていけるのではないだろうか」

 それもまた、仏縁、ということなのか。

 先ほどまで、墜落してしまうのでは、と、心配になるほど低空飛行の、Aくんの「ムネン!」論ではあったのだけれど、私なりに、ストンと腑に落ちたように思えた、その途端に、上昇気流に乗って、一気に大空に吸い込まれていくような気がした。(つづく)