ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.398

はしご酒(4軒目) その百と四十九

「オレヲ テラス タイヨウ」③

 その、海そのものを炙ったかのような匂いにつられて、迷宮から舞い戻ってきたAくんも、舞い戻りついでに、エイヒレを一切れ、ヒョイと指で摘まんで口に放り込む。

 「柔らかい!、旨味の凝縮感もスゴいな」

 私と同様に、大絶賛である。

 そして、いよいよ、あの、待ちわびていた、「俺を照らす太陽がある」の、その、太陽の謎の真相に迫る瞬間が、やってこようとしている。

 大きく息を、フ~っと吐いたあとAくんは、いつも以上にユルリと、ついに、語り始める。

 「イロイロと考えてはみたけれど、アレもコレもと思いもしたけれど、行き着いた先のそのソコにあったものは」

 「あったものは?」

 「この年で、口に出すには、さすがに気恥ずかしくて、憚(ハバカ)られるのだけれど、やっぱり、愛、愛だと思う」、とAくん。

 「あ、あ、愛、ですか」

 あまりに意外な言葉であったので、少し、どころか、かなり、戸惑いさえ感じてしまう。

 「家族であったり、恋人であったり、親友であったり、師匠であったり、あるいは、そのあたりをポーンと飛び越えた、超越した神さまのようなものであったり、という、そういったものの愛が、愛の力が、きっと、彼に、ジワリジワリとエナジーを与え、キラリキラリと光り輝かせていく、みたいな、そんな感じなんじゃないか、って思うんだよな~、僕は」、とAくん。

 「ひとり、のように見えて、実は、決して、ひとり、ではないんだ、僕たちは、ということですか」、と私。

 「そう、ひとり、じゃない。目には見えないかもしれないし、手で触れることもできないかもしれないけれど、諦めない限り、ソコには必ず愛がある、ということだ」

 先ほど感じた戸惑いは、いつのまにかどこかに消え失せ、Aくんの熱き持論に、いかなる躊躇(タメラ)いもなく、清き一票を投じたくなる。

 太陽が、分け隔てなく万人を照らすように、愛もまた、必ずや、万人の手が届く、まさにソコに、あるということなのだろう。(つづく)