ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.397

はしご酒(4軒目) その百と四十八

「オレヲ テラス タイヨウ」②

 トンと目の前に置かれた、そんじょそこらの居酒屋の定番でもあるエイヒレが、海そのものを炙ったかのような匂いを放っている。放ってはいるものの、女将さんには申し訳ないけれど、エイヒレというものを、いままで一度も、「うまいな~これ」などと思ったことはない。

 期待も思い入れもない、そんな目の前のエイヒレではあるが、全く手を付けないというのもまた失礼かと思い、なんとなく重く感じる箸で、その一つをつまみ上げる。

 「そのまま召し上がってみてください」、と女将さん。

 言われるがまま、そのまま、口に放り込む。

 期待も思い入れもない、ということもあったからかもしれないけれど、そのエイヒレは、まさに「うまいな~これ」レベルの逸品で、つい、声を出して唸ってしまう。

 「美味しいでしょう」、と、ほんの少し勝ち誇ったかのように、女将さん。

 「ぜんぜん違いますね、ナニか秘密でもあるんですか、知りたいな~、教えてくださいよ」、と、なんとも無粋な私。

 「もちろんアリますよ~、でも、企業秘密、ナ、イ、ショ、で、す」、と、とびっきりチャーミングな笑顔で返す女将さんに、おもわず、ちょっと、惚れてしまいそうになる。

 ここにもまた一つ、謎のベールに包まれたものが、などと思いつつ、とてもいい気分で、その逸品を肴に、アテに、オール能登の従兄弟筋をグビリとやる。(つづく)