はしご酒(4軒目) その百と十六
「ヒニチジョウ ノ ススメ」②
「それで、日常を捨てて、非日常に身を投じた、というわけですね」、と、もう一歩踏み込んでみる。
「僕のこと?、あ~・・・、でも、ちょっと違うかな」、とAくん。
学校の先生というリアルな日常を捨てて、アートの世界、作品づくりの世界、という非日常に身を投じた、と考えることに、それほど問題があるとは思えないのだけれど、Aくんは、なぜか、静かに否定する。
「日常あっての非日常、ということなんだと思う」
「ん?」
「僕にとっての創作活動は、すでに、日常、なんだな」、とAくん。
微妙にヤヤこしくなってきた。
「非日常は、非日常だけでは成り立たない、ってことですか」、と私。
短い沈黙。
少し長めの沈黙。
思いのほか、長い沈黙。
沈黙が、その形を少しずつ変えながらズルズルズルと、どこまでも続く。(つづく)