はしご酒(4軒目) その百と六十一
「ヨウカイ イロガツクツクボウシ ノ キョウフ」②
「たしかに、いろいろなものが、へばりついている、という気も、しなくはないか」
えっ?
「普通、わかるだろ」という言葉あたりが、間違いなく返ってくるものと思い込んでいただけに、肩透かしを喰らった感じではある。
「へばりついている、ですか」
「そう。そうでなきゃ、これほど、そこかしこで、バッシングやらクレームやらの嵐が、吹き荒れたりはしないだろ」
コトはそれほど単純ではない、ということなのだろう、か。
「ソコに差別の臭いさえする」、と、付け加えるようにAくん。
人は、ほんの少しの油断で、ズルズルと、排他的で利己的で高圧的な世界に身を投じてしまう、という危険性を秘めている、と、かねてからAくんは、警鐘を鳴らし続けている。そのことに、私も異論はない。とくに、自分というものを表に出すことなど、そうそうない、普段は、なんとなく温厚そうに見える、そんなこの国のピーポーたちに、漠然とながら、その危険性を感じていたりもする。
「だからこそ、沈黙という美徳が、致し方なしの苦肉の策であった、というその考え方に、頷(ウナズ)けなくもないか、な」、と、無理くりの私のツッコミに共感してもらえた、にもかかわらず、ナゼか、全く満足感は湧いてこない。それどころか、ちょっとした悲しさまでも覚えてしまう。
ひょっとすると、そもそも共感など、Aくんに求めていなかったのかもしれない。(つづく)