ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.363

はしご酒(4軒目) その百と十四

ネムッテイルジカン」②

 「せめて眠っている時間ぐらいは、という、シモジモである一般ピーポーのささやかなる願いとは裏腹に、眠っている時間は、起きている時間に、ズンズンと力づくで侵食されつつあるような気がするんだよな」、とAくん。

 「ズンズンと力づくで、侵食、ですか」、と私。

 Aくんの分析によると、起きている時間の、あまりのママならなさが、おぞましい負のパワーを生み、眠っている時間までママならなくしてしまう、ということであるらしい。

 寝付けない。

 眠りが浅い。

 悪夢に魘(ウナ)される。

 寝汗をかく。

 すぐに目が覚める。

 なるほど、たしかに、悲しいかな、Aくんのその指摘は的を得ているようにも思える。

 ようにも思えるけれど、誰もがもっている、この自分だけの眠っている時間ぐらいは、どうにかして好きなように過ごせないものか、と、真剣に思ったりもしてしまう。

 「よし、前回の共演のときのこともあるので、嫌がられるかもしれないけれど、もう一度、コルトレーンとやらせてもらおうかな」、と、ちょっと前向きに私。

 「いい、いいよ、それ。あのジョン・コルトレーンも、君にダメ出しされたあと、原点に立ち返り、ミッチリとテナーサックスの練習に励んだと思う。こうなってくると、僕も、ジャジーなボーカルで参加しようかな」

 バカみたいなやりとりが、バカみたいに熱を帯びて盛り上がる。

 私の眠っている時間の話なのにもかかわらず、すっかりその気になってきたAくん。

 「ピアノは、やっぱり、マッコイ・タイナーだろうな~」

(つづく)