ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.335

はしご酒(4軒目) その八十六

「ヤッパリ ハードロック!」②

 そのフェードアウトに待ったをかけたのが、誰あろう、この私自身であったものだから、なんだか驚いてしまう。

 随分と昔のことである。

 当時、大学生であった姉に、なにか欲しいレコードがあったら、アルバイト先のレコードショップで買ってきてあげるよ、などと言われて、嬉しくて、なんとなくホワンとした気持ちになった私は、人知れず好きだった、あるロックバンドのシングルレコードを、頼むことにした。

 ロックそのものに、それほど興味があったわけではないのだけれど、中学生であった私には、その妙に生々しい女性ボーカルが、なぜか、とびっきりカッコよく思えてならなかったのである。

 「女性ボーカルって、どうですか」、と私。

 「女性ボーカルと言われても、幅、広いよね~。そもそも、女性とか、男性とか、って、分けて考えたこともないし、なぜ、そんなことを聞くわけ?」、と、想定外の質問返しに遭ってしまう。

 女性ボーカルの名前を、Aくんから聞いた記憶がなかったものだから、おもわず、そんな質問をしてしまったのだけれど、少しばかり後悔する。

 「オランダのロックバンドだったと思うのですが、その紅一点のボーカルが、好きだったんです」、と、滲(ニジ)む照れ臭ささを隠すようにして、私。

 「あ~、ショッキング・ブルーね。僕もよく聴いたよ、ショッキング・ブルーの♪ショッキング・ユー、あのお姉さん、独特の怪しさがあって、よかったよな」

 そうなのだ、あのお姉さんの独特の怪しさが、ウブな少年の心には、ズルンズルンとかなり刺激的であったのである。

 ちなみに、姉が買ってきてくれた来日記念シングル盤は、歌謡曲っぽいノリも気持ちよく、しばらくの間、私の愛聴盤となっていたことは言うまでもない。

 Aくんのマネをするわけではないけれど、私もまた、あのときの、あの、母からの (めったにない)クリスマスプレゼントであったビクターのコンパクトレコードプレーヤーで、できることならもう一度、聴いてみたくなる。(つづく)