ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.334

 はしご酒(4軒目) その八十五

「ヤッパリ ハードロック!」①

 「やっぱり、ハードロックなんだよな~」

 Aくんにとっての一服の清涼剤なのかもしれない。彼と呑み交わすときは必ず、いつでもどこでも突然に、熱く語り始める自慢のハードロック噺、いよいよ今宵も、その幕開けのようである。

 「僕は、当時、プログレッシブ・ロックの先駆者とまで言われていたピンク・フロイド(Pink Floyd)、Sくんは、その聖域に迫る勢いのエマーソン・レイク&パーマー(EL&P)、そして、Bくんは、ブラスロックの雄であるシカゴ(Chicago)、さらには、ブラッド・スウェット&ティアーズ(BS&T)、という強者(ツワモノ)たちの中から、それぞれ、選りすぐりのイチオシLPアルバムを持ち寄っては、その頃、最もハイクオリティなオーディオ・システムを誇っていたBくん宅に集合し、三人で聴き入っていたんだ」、とAくん。

 あまりよくわからないながらも、それらって、ハードロックじゃないのでは、と、ウスラウスラと思いはするものの、そんなこと、口に出せるわけもなく、覚悟を決めて耳を傾けることにする。

 「ピンク・フロイドのスペッシャルな名盤である『おせっかい(Meddle)』の、サイケデリックに畝(ウネ)るような音の洪水に、絶対の自信をもって臨んではみたものの、なぜだろう、シカゴやらBS&Tのブラスセクションがもつ理屈抜きのアナログパワーの前に、一歩も二歩も尻込みをしてしまうような、そんな感触を覚えたことを、Bくんのおふくろさんがいれてくれた、ちょっとリッチな紅茶の記憶とともに、今でもリアルに思い出すことができるわけ」

 もう、こうなると、Aくんの熱き語りのそのほとんどが、日本語なのがどうなのかさえもわからないぐらい、ナニがナニやらサッパリなのだけれど、それでも、電子音ではない生音の凄みのようなものが、若きAくんには、それなりにパワフルにビンビンと伝わってきていたのだろうな、ということぐらいなら、なんとなく、わかるような気がする。

 「前代未聞のLP4枚組ということも話題であった『シカゴ・アット・カーネギーホール』、もう一度、ジックリと聴いてみたくなる。できることなら、あのときの、あの三人で、あの空間で、そして、あのオーディオシステムで・・・」、とAくん、郷愁を感じさせつつ、静かにフェードアウトする。(つづく)