ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.320

はしご酒(4軒目) その七十一

「キョウシュウ ノ イソベヤキ」②

 「なぜなのかは、全く見当もつかないのだけれど、磯辺焼きを頬張ると、必ずと言っていいほど、祖母、のことを思い出す。祖母が愛を込めて磯辺焼きを僕のために、などということはなく、もちろん、正真正銘、僕自身による特製の磯辺焼きであったわけで、祖母は、磯辺焼きとはなんの関係もない。にもかかわらず、この年になっても、磯辺焼きを頬張ると祖母のことを思い出す。しかも、洗濯物を干している白い割烹着姿の祖母なのである。これは、一体全体、どういうことなのだろうか、と、不思議に思う僕のその隣に、それはそれで俯瞰(フカン)して、懐かしく、ノスタルジックに楽しんでいる、もう一人の僕がいたりするわけなんだけどね」、とAくん。

 ますますスペッシャル感が際立ってくるAくんと、Aくんのお祖母さんと磯辺焼きとの間に、きっとなナニかがあったに違いないのだろうけれど、今となっては謎また謎、おそらくは解明されることなどないのかもしれない。

 とにもかくにも、人というものは、本当に面白い。感覚と時の流れと失われた記憶とが、絡みに絡み、立体的にボワンと香り立つ、などということがあったりするわけだから。

 すると、突然、今宵一番の大きなAくんの「あああああ~」という声が、店内に響き渡る。

 「洗濯物を干す割烹着姿の祖母のその手前に、カメラを構えて立つ少年の僕がいる」

 「えっ!?」

 さすがに、またまた、なんのことやら、サッパリな私に、Aくんは、これ以上スッキリとした顔はないだろう、というぐらいの表情を浮かべながら、こう語ったのである。

 「その少年の僕が、口にくわえているんだよ、磯辺焼きを」

 全身に、なんだか清涼感のある鳥肌が、シュワシュワッと立つような、そんな妙な感覚が、私の中を、かなり気持ちよく駆け巡る。(つづく)