はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十二
「クロウタドリ!」②
実は、同じように、この曲だけは特別という一曲が、私にもあるのだ。
「それほどまでに熱く、ではないかもしれませんが、私にもあるのです。ナゼか苦手なザ・ビートルズ、の、数多ある曲の中の、ナゼかスペッシャルな一曲が」
「ほ~、興味あるな~、その一曲」
「それが、♪ブラックバード、なのです」
「あ~、♪ブラックバード、ね」
「ご存じですか」
「もちろん」
「ナゼかこの曲だけは、初めて聴いたときからずっと忘れられなくて。アコースティックギター一本で勝負します、という、その潔さも、そこはかとなく漂ってくるその静かなるパッションも」
「歌詞も、かなり、深いしね」
歌詞?、歌詞のことなど考えたこともなかった。
「歌詞、ですか」、と、おもわず聞き返してしまう。
「よくある惚れた腫れたのラブソングじゃない、だろ」
「そうなのですか」
「おそらく君がなんとなく感じていた、その静かなるパッションってヤツも、そのあたりからジワジワと滲み出ていたものなのかもしれないな」
「ブラックバード、クロウタドリ、かな、が、ナニかの比喩だということですか」
「そうそう、そういうこと。そもそもその曲って、アメリカの黒人たちの公民権運動に触発されてつくられたらしいし。だからこそ、それゆえに、その、鳴き声の美しさに定評があるブラックバード、クロウタドリに、その、黒人たちの思いを託したのだと思うんだよな~」
クロウタドリの美しい囀(サエズ)りに、黒人たちの思いを、か~。
「今、まさに、自由に向かって傷ついたその羽を羽ばたかせる・・・、たしか、そんな歌詞だっだと思う」
難しいことはわからないけれど、なぜ、アコースティックギター一本で、静かに、淡々と、語り掛けるように歌ったのか、の、その理由(ワケ)が、不鮮明ながらもジンワリと、わかったような気がする。
よし、と私、よせばいいのに、ココで一句、心の中で、詠む。
さえざえと
さえずりずりり
悔しいけれど、Aくんの100万倍、私には、この分野の才能がないことに気付かされる。(つづく)