はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と六十六
「キョウシュウ ノ コークスストーブ」
あの頃の小学校の教室。やたらと木材テイスト。窓も扉も棚も机も椅子も、ドコもカシコもナニもカも、ほとんど金属感がない。中でも、とくに記憶に残っているのが、妙に黒々とした木の床だ、と、懐かしそうに語り始めたAくん。その後、コンクリートと金属とプラスチックの無機質な塊(カタマリ)にしか見えない、そんな、味気のない校舎キットのような建物が乱立する時代に突入していっただけに、Aくんが、ノスタルジックに懐かしむその気持ち、わからなくはない。
「ただし、毎年冬になると、ある日突然、そんな木材木材した教室に、存在感のある異質な物体がデデ~ンと降臨するわけ」
「異質な物体が、デデ~ンと、ですか」
「そう、デデ~ンと、ね、コークスストーブが降臨するわけよ」
「コ、コークスストーブ?」
「コークスは、石炭からつくられたスーパープレミアム石炭。みたいなモノで、その、ストーブが、コークスストーブ。コイツが、フォルムもポッテリとしていてホントにいいんだ」
木材木材した教室の中で、重々しくその存在感を示すコークスストーブ、か~。
「二酸化炭素的にはダメってことになるんだろうけれど、当時、主力であった石炭火力。ソレと、切っても切れないコークスの、その副産物が、なんとあの、妙に黒々としたコールタールだったわけ」
コールタール?
「ほら、黒々とした木の床。と、黒々としたコールタール」
ん?
「んん?」
わっ!
「わわっ!」
「そう、そういうコトなんだよな~。コークスから生まれたコールタールが教室の木の床を優しく包み込む。つまり、つまりだ。コークスとコールタールは、まさに、親子みたいな関係だということ」
「ということは、教室での涙の再会、ですね」
「涙の再会かどうかはわからないけれど、とにかく一年ぶりだからね、そりゃ、会話も盛り上がったりするわけよ。わ~、コークスパパ、おかえりなさ~い。あ~、コールタールだね、元気だったかい。お前もダイヘンだね。踏まれても踏まれても歯を食いしばって木の床を守り続けているんだから、たいしたもんだよ。いえいえ、ソレほどでもないです。年に一回は親戚筋の若いコールタールたちが応援に駆け付けてくれますから。ほ~、それはいい連携だ。自分一人でナニもカも背負ってしまうと碌(ロク)なことがないからな。コークスパパも、ストーブさんと上手くやっているみたいじゃないですか。見事なまでのコンビネーションプレイ、羨ましい限りです。いや~、ストーブさんは質実剛健。全てを受け止めてくれるからな~。感謝してるよ。・・・なんてね。そんなドラマが、あの頃の小学校の教室には、あったような気がするんだよな~」
(つづく)