ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.315

はしご酒(4軒目) その六十六

「ブーム!」③

 ココで、思い切って視点を変えてみる。

 ブーム側に好意的に寄り添うことで見えてくるモノもあるかもしれない。

 「ブームにおける特筆すべき最大のチカラの源って、ナンだと思いますか?」、と、その突破口を切り開く意味も込めて、Aくんに尋ねてみる。

 「ん~、チカラの源ね~・・・、やっぱり、その瞬発力だな。すでに死語かもしれないけれど、まさに、キャッチー(catchy)というヤツ。文字通り、掴(ツカ)んで離さない、その類(タグ)いまれなる握力の、その強さに、ブームを引き起こすパワーの源があるんじゃないかな」

 さすがAくん、なるほど、的を射ている、かも、しれない。

 「ただし、にもかかわらず、その握力をジワリジワリと弱めていくナニかがある、ということなんだろうな~」

 弱めていくナニか、か~。

 おそらく、ソコに、ブームのブームたる、ナニかが潜んでいるのだろう、と、漠然とながら、私も思う。

 「例外はあるのだろうけれど、ブームになるぐらいだから、その最初の段階では、パワーに満ち溢れている、とは思う。むしろ問題なのは、そのあとだな。ブームがブームであるためには『量』を必要とする、というその性格上、どうしても質から量へとジリリジリリと移行していくのが宿命。その中で・・・」

 「その質が劣化していく、ということですか」

 「君が言うところの、ブームにへばり付く劇薬の臭いってのは、おそらく、目先の儲けに目がくらみ、ブームに便乗した者たちがもたらした、質の低下、劣化、から、漂ってくるんだろう、と、僕は思う。そして、人々に失望され、飽きられ、ブームは過ぎ去り、消え去っていくのだろうな~」、と、なんとなくデクレッシェンドな雰囲気で語り終えようとしたAくんであったのだけれど、幸い、もう少しだけ、話は続く。

 「しかしながら、心配ご無用。仮にブームが過ぎ去ったとしても、質より量の便乗組は別として、やっぱり、いいモノは、必ずや残る、ということだけは間違いない」

 いいモノは必ずや残る、か~。

 そのラストの一言で、どうにかこうにか救われたような、そんな気がした私は、もう一口、女将さん渾身の揚げ出し豆腐を、口に放り込む。(つづく)