ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.274

はしご酒(4軒目) その二十五

「ヒトガヤドルモノ ノ ススメ」

 憧れの大島紬(オオシマツムギ)、ということもあるのだけれど、以前、Aくんが、彼の、今は亡きお祖父さんの大島紬を、あまりに小粋に着こなしていたものだから、そのとき、ホントにカッコいいな~と、心底思ったことを、なぜか、思い出す。ひょっとすると、先ほどからAくんが、実に美味そうに奄美大島黒糖焼酎をチビチビやっているので、そのあたりからの、お祖父さんの大島紬なのかもしれない。

 「あのお祖父さんの大島紬、今でも着られたりするんですか」、と、なんの脈絡もなく尋ねてみる。

 「お祖父さんの大島紬?」

 「ほら、若いときにお祖父さんが、奄美大島で、一目惚れして、大枚はたいて手に入れたという泥染めの」

 「あ~、あれね、ジイちゃんからもらったやつ、着る着る、でも、たまにだけどね」

 「あれ、カッコよかったな~」

 少し照れぎみのAくんをよそ目に、ここでちょっとあることが、私の中に、プクリプクリと沸き起こる。

 考えてみると、たしかに、お祖父さんの目利きの妙には拍手を送りたいのだけれど、そのこと以上に、あの大島紬の染め師や織り師のことが、ユクリユクリと気になり始めたのである。

 おそらく、100年は優に越えるそんな頃、奄美大島の名もなき染め師が心を込めて染め、名もなき織り師が、来る日も来る日もコツコツと、ただひたすら織り続けたのだろうな~。そんな思いが、時空を越えて、お祖父さんのあの大島紬から、ジワリジワリと伝わってくるようなそんな気が、マジにしりするものだから、ホントに不思議だ。

 私は、やはり、「人」だと思う。

 そこに人がいる、宿っている、そのことが、そのものが、大切なのだ、と、ツクヅク思うのである。

 人が宿るものを身にまとう、人が宿るものを使う、人が宿るものを食す、その感動が、その喜びが、この国の、この星の、人々の幸せやら、平和やら、に、繋がっていくような気がして、ほんの少しだけれど、妙に目頭が熱くなる。(つづく)