ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.263

はしご酒(4軒目) その十四

タツタアゲ タイムマシ~ン」

 「ぬる燗でいいかい」とAくん。お酒を燗する、という発想が、ほぼない私なのだが、なんとなく勢いみたいなものに押され、おもわず「はい」と答えてしまったことに、少し後悔する。

 そうこうしているうちに、あの香りの元が目の前に運ばれる。聴覚から臭覚を経由して視覚の領域に、という感じだ。あらためてジックリと眺めてみると、淡く赤黒っぽい竜田揚げ風なものの上に黒酢ベースの餡が上品にかかっている。

 「おっ、いいね~、今宵は鯨day、ってところかな」、と、こころもち上機嫌なAくんである。

 鯨day?、鯨?、目の前の竜田揚げ風の正体が徐々に暴かれていく。ただ、同時に、なにやらどことなく懐かしいような、そんな奇妙な感情が、プクリプクリと湧いてきたような気も、したりする。

 なぜにゆえにプクリプクリなのか。Aくんに勧められて、なるべく小さめなのを遠慮しつつ口の中に放り込むまで、まるで検討さえもつかなかったその謎の真相が、カリッとグジュッと噛みしめたその瞬間に、ブワンブワンと見事に浮かび上がることとなる。

 給食!、そう、給食のメニュー、あのときのあの鯨のカッチカチの竜田揚げ。

 もちろん、言うまでもなく、(当時の給食のお姉さんたちには大変申し訳ないけれど)グレイドの違いは歴然。にもかかわらず、あのときのあのカッチカチは、当時の私にとって、最高にお気に入りのメニューであったのである。

 さらに、この目の前のカリッでグジュッな鯨の竜田揚げは、私を、ほとんど忘れかけていた小学生であったあの頃のあの給食時間のあの教室に、フルスロットルで連れていく。まさに郷愁の、鯨の竜田揚げタイムマシ~ン。

 そうだ、私の席の右隣にSちゃんがいた。その右隣のSちゃんは、そのカッチカチを、なぜかその度に必ず「あげる」と言いながら、私のアルマイトの皿にポンと置いてぐれた、それはそれは心優しい女子であったのである。でも、もちろん、あのときの、私の「お~っ」という、(ちょっとした恋心の一歩か二歩ほど手前のような)幼き甘い思いは、悲しいかな、全くの勘違い、完全な思い過ごし、であったことは言うまでもなく、それどころかSちゃんは、次の学年に進級するその少し前に、ほとんど学級で話題になることもなく、静かに転校していった。(つづく)