ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.248

はしご酒(3軒目) その七十七

「オサガワセシマシタ」①

 とくに騒いだつもりなどなかったのだけれど、条件反射のように、ほぼ無意識に、「マスター、お騒がせしました」、と私。案の定、「謝っていただくことなどなにもありません、ステキなお仲間で羨ましい限りです」という澄んだ穏やかな声が、即座に返ってくる。

 そんなところで引っ掛かる必要なんてないのだけれど、なんだか、妙に不思議に思えてくる。

 お騒がせしました。

 お騒がせしました、なんて、微塵も思ってはいないのに、なぜ、そんなことを宣ってしまうのか。クールダウンついでに、しばし考えてみる。

 一種独特な謙(ヘリクダ)った言葉のキャッチボール、この国の古来からのコミュニケーションツールの一つのようにも思えるし、一歩引いたその姿勢に、ちょっとした美意識さえ垣間見られるようにも思える。

 とはいえ、そんな美意識など全くDNAに刷り込まれていない、たとえば海外から来られた方々からすると、そう簡単には理解されそうにない、なかなか高難度のツールである、とも思えてしまう。

 それでもやはり、そうした取るに足らないような細かい一つ一つこそが、それぞれの国の個性であり、アイデンティティであり、文化であり、独自の美意識であり美学である、などなどと、あれこれ思ったり考えたりしているうちに、クールダウンどころか、脳内がウォーミングアップしてしまった私は、さてさて、これからどうしたものかと、再び、しばし考え込む。(つづく)