はしご酒(3軒目) その七十六
「オヤスミナサイ」
「ものづくりは、現場が命、その命の現場を軽んじることは、決して許されることじゃ、ないわ」、と、少し険しい表情で呟くZさん、その視線は私の前を素通りし、相方のZ’さんにロックオンする。
「タクシー、呼ぶ?」
「あ~、そうしようか」
Zさんの特命を受けたZ’さんが、手際よくタクシー会社に連絡を取ったり、マスターにお水をいれてもらったり、「楽しかった~、また、呑みましょう」などと、にこやかに語りかけてくれたり、さりげなく、私の分まで支払いを済ませたり、(もちろん私は、「やめてください」と拒んでみたり、恐縮してみたり)しているうちに、店先にタクシーが到着する。
そんな数多くの「たり」と、Zさんの「おやすみなさい」という言葉を残して、二人は店を出て行った。
もう少しひとり酒を、と思い、この店に立ち寄ったのだから、こんなことを思うこと自体、おかしな話なのだけれど、なにやら、私だけが取り残されたような、そんな一抹の寂しさを覚えてしまった私は、なぜか、意味もなく、大きく息を吸い込み、ユルリと長く、そして、静かにその息を吐く。(つづく)