はしご酒(4軒目) その百と百と二十一
「アイシュウ ノ ペンフレンド モノガタリ」②
「ナニか、あったのですか」
「ナニかが、あったのだろうな。若気の至りで、つまらないナニかを、偉そうに宣ってしまったのかもしれない。けれど、そのナニかがナニなのか、全く思い出せないんだ」
「都合の悪いことは、オートマチックに忘却の彼方へ、という、自己防衛本能、ってヤツですか」
「そうだと思う。きっとそうだろう。だから余計に、申し訳ないという気持ちで溢れ返り、懐かしのペンフレンドの、その記憶に、いつだって暗い影がさしてくる」
酒のせいもあるのだろうが、Aくんの目が、少し潤んでいるようにも見える。
「でも、ステキな思い出じゃないですか。羨ましいですよ、ホントに」
思えば、この年齢になって、ようやく、やっと、ユルリと大らかに、モノゴトと向かい合えるようになってきたような気がするし、考えることができるようにも、なってきたような気がする。そんな、ナンとも頼りない過去の自分であったがゆえに、多くのすれ違いや別れを生んできたのだろう、と、今となっては素直に思える。おそらくAくんも、そんな感じなのかもしれない。
Aくんにとっての、哀愁のペンフレンド物語、は、ほろ苦いスパイスが、パラリパラリと振り掛けられた、そんな、心にピリリと沁み入る物語であるようだ。(つづく)