ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.193

はしご酒(3軒目) その二十二

「アリ ト キリギリス」①

 「唐突ですけど、アリとキリギリス、という絵本、ご存知ですか?」 

 「あ~、大好きな音楽に、かまけて、明け暮れて、大変なことになってしまったギリギリスさんのお話でしょ」

 「そう、そうなんです。だいたい、ほとんどの人が、アリではなくキリギリスに注目する」

 「そう言われると、たしかに、夏の間、地道にコツコツと働き続けたアリさんなのに、印象も影も薄いよね」

 「改訂版では、最終的にはキリギリスを助けてあげるのですが、オリジナル版では、キリギリスを門前払い。当然のごとく門前払いされたキリギリスは餓死してしまう。おかげで、印象が薄いどころか、薄情なアリ、というレッテルを貼られて、非難までされたりする。さらには、生き方的には、自由に生きるキリギリスの方が、ただ生きるためだけに働くアリより共感できるかも、とまで言われたりも、する」

 「なんだか可哀想ね、アリさんも」

 「ホントに、そう、そうなんです。真夏の炎天下、毎日毎日、家族のために、脇目も触れずに働き続けて、キリギリス一匹さえも助けることができない程度の蓄えなんです。わかりますか、この不条理。絶対に、アリの親分みたいなヤツに搾取されているに違いないんです。そうでなきゃ、そんな悲惨なコトになっているはずがないんです」

 Zさんと、そんなやり取り(と言っても、ほとんど私が喋っているのだけれど)をしているうちに、ジワジワジワジワと声が大きくなってしまった私は、慌てて、そのボリュームを一気に下げる。(つづく)