はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と三十五
「ノドモトスギレバ~ ナ レバー ト スパイス」②
「でもね、スパイスも、その使い方次第で悪魔にもなり得る、ってことだけは忘れるべきじゃない」
「悪魔にも、ですか」
さすがに驚いてしまう。
スパイスのイメージは、素材の良さを思う存分に引き出してくれる善玉の魔法使いだ。にもかかわらず、悪魔にも、とは。
「たしかに、大袈裟かもしれないけれど、スパイスには、豚レバーの眠れる魂を呼び起こすだけのパワーが秘められている、とは思う。コレは間違いない。間違いないんだがな~」
私が抱いているイメージに限りなく近い。なのに、ナゼ、悪魔にもなり得る、などと、Aくんは宣うのだろう。さらに一層ジワジワと、ナゾめいてくる。
「クミン、ターメリック、グローブ、花椒(ホアジャオ)、などなどと、豚レバーとの相性がいいスパイスは数多くある。中でも僕のイチオシは、八角(ハッカク)」
「はっ、八角、ですか」
「そう。あの、スーパーチャイニーズスパイスである五香粉(ゴコウフン)の一翼を担う、八角」
「そんな、その八角でさえも悪魔になり得る、ということですか」
「その可能性は、たとえ八角といえども、コトとシダイによっては充分にあり得る、ということだ」
話を聞けば聞くほど、豚レバー、八角、悪魔、が、三つ巴にグルグルと、私の頭の中を回り出す。(つづく)