はしご酒(4軒目) その七十六
「サンポウヨシ!」①
「三方よし」。
売り手も、買い手も、この世の中も、全部丸ごと「よし!」という、商売の究極の理想形を端的に言い表した名言である、らしい。
現在の滋賀県をホームグラウンドとして、そこから全国に商売を展開しながら、ジワジワと信頼を勝ち取っていった当時の近江商人たちの、魂の気高さを感じずにはいられない。
「三方よし。近江商人の魂の気高さを象徴しているかのようなこの言葉、ご存じですか」
「三方よしか~、知ってるよ。マジで素晴らしいよな。お商売に携わる人たちに限らず、シモジモじゃないエライ権力者たちにも、この魂の気高さがあれば、この国の、この星の、有りようも、もう少し違ったものになっていたかもしれないな」、とAくん。
とくに、現代を生きる我々は、この世の中のことを、この星のことを、真剣に考えるということが、見事なまでに苦手であるように思われる。
「今、この星で問題になってしまっていることって、そのほとんどが、その三方よし、を、軽んじたところに端を発しているような気さえするからな~」
たしかに、その通りだ。
でも、なぜ、そんなことになってしまったのだろう。
飛躍しすぎで、ピント外れかもしれないけれど、実は、ずっと以前から、人知れず、私は、こんなふうに思っているのである。山や海や湖や川や巨木や巨石といった自然の中にこそ神が宿ると信じてきたからこそ、けっして、畏(オソ)れる心、崇(アガ)める心、を、失ってはいけないという、そういった古来からの教えのようなモノがあったと思う。にもかかわらず、そういったモノを、人々の心の中から徐々に消し去っていったことが、ひょっとしたら、大きな要因の、その一つなのかも、と。(つづく)