はしご酒(2軒目) その十九
「ナンジ ノ テキ ヲ アイス」
汝の敵を愛せるか。
これは、なかなか難しい。なんといっても、汝の「敵」なのだから。そう易々と愛せるぐらいならば、それは、そもそも汝の「敵」ではない、のではないだろうか、とさえ思ってしまう。
汝の「敵」を、あなたは愛せるか。というか、私は愛せるか。
正直言って、私は、私の「敵」は愛せない。そんな気がする。
「敵」とはなにか。
「愛する」とはなにか。
たいていは、愛してあげるから、こっちの言うことを聞きなさい、という感じのように思える。汝の「敵」を、丸ごとそのまま、そのままの姿で愛することなど、どう考えても現実的ではない。
「敵なんか愛されへん、って言うんやったら、ハナから、つくれへんかったらええんとちゃうの、その敵っちゅうのんを」、とOくん。
それが正論であることぐらい、私にだってわかる、けれど、ソレって、さらに難しいでしょ、と、心の中で、突っ込ませていただいた。
突っ込ませていただきながら、いや、まてよ、ひょっとしたら、敵とか味方とか、そんなことなど全く考えない、微塵も思いもしない、そんな人徳の塊のような人って、いるのかもしれない、と、そんな思いが、ブクブクと湧きあがってきた。湧きあがってはきたものの、やはり、私には無理だ、ありえない。だけれども、ありえない私のままでは、ダメだということも、充分に理解はできるだけに、頭と心と現実と理想とが、ゴチャゴチャなままドンドンと、頭と心が痛くなる。
そんなこんななことをアレコレ考えていると、「そもそも、愛っちゅうもんをやな~、熱いもんと考えてまうから、頭の中も心の中もカッカしてもうて、冷静さを失ってまう、これが諸悪の根源のような気がすんねんけどな~」、とOくん。
すると、サービスです、と、手づくりのイカの塩辛をヒョイとカウンターに置いてくれたお兄さんが、「アイス、って言うぐらいですから、ね~」、と。
一瞬、「あ~」という、実に悔しそうな表情を見せたOくん、であったけれど、そのサービスのイカの塩辛のあまりの美味しさに、「アイス、愛す、愛させてもらいまっせ~」、と、妙な可愛さを振り撒きながら、プチ叫びまくるのであった。(つづく)