はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と三十九
「ゴシャッパラヤゲル! ゴシャッパラヤゲル?」
方言。
言語文化の世界における、その多様性の象徴として、燦然と光輝いている。
標準語。
利便性を追求したコミュニティツールの象徴として、ソレなりに輝いてはいる。しかしながら、方言自体がもつ「文化パワー」には、到底敵(カナ)わない。
そう、文化パワー。
文化を伝えるための一つのツールとしての言語なのではなくて、それぞれの地方の人々が、風土が、歴史が、育んできた言語、コトバ。ソレ自体が、文化の塊(カタマリ)なのである。ソレを、ソレがもつパワーを、私は「文化パワー」と呼んでいる。
そんな数多ある方言の中で、とくに東北地方の「ゴシ、ゴシャ系」群の中で、私が最も「凄いな」と思ったコトバを、Aくんにクイズっぽく問い掛けてみる。
「私が、旅の途中で、たまたま耳にした『ごしゃっぱらやげる』というコトバ、どういう意味なのか、ご存じですか」
「ご、ごしゃ、ごしゃっぱらやげる~!?」
「そうです、ごしゃっぱらやげる」
「ドコかの方言なんだろうけど。ごしゃっ、はらやげる。ごっしゃはらがへる。ごっつう腹が減る。お、おお。コレだな。メチャクチャお腹が空いた。ほら、『朝からナニも食べてないから、ごしゃっぱらやげた~』みたいな。どうだい、ドンピシャだろ」
うわっ。モノ凄い推理力。
おもわず、正解かと思ってしまったほどである。しかし、考えようによっては、当たらずと雖(イエド)も遠からず、かもしれない。
「申し訳ありませんが、正解は、腹が立つ。頭にくる。ムカつく。なのですが、ひょっとしたら、その由来は、メチャクチャお腹が空いた~、なのかもしれませんね」
「もしそうなら、僕の推理力も、満更、捨てたものじゃない、ということになるのだろうけれど。残念だけど、ま、違うな。悔しいけど違うと思う」
ドコで、ナニがあって、ドノようにして、ドウ育まれていったのか、カタチづくられていったのか。そんなナゾめいたところがまた、イイのだろうな、きっと。
ごしゃっぱらやげる。
ごしゃっぱらやげる!
ナンにしても、とにかく、やっぱり興味深い。
味も素毛もない単なる「腹が立つ」に、土着のパワーがネチッこく纏(マト)わり付いたような、そんな地方文化の「凄み」みたいなモノが感じられて、実に気持ちがいいのだ。(つづく)