お会計③
店内を覗き込む、Aくんではない、男。
全くもって、似ても似つかぬ、見知らぬお客さんだ。
そのお客さんには、タイヘン申し訳ないのだけれど、私は、コレ以上ないというぐらいの「ガッカリ」感を、プッシュ~ッと、身体中の穴という穴から放出させていたはずだ。なぜなら、自分が萎んでいくのが、ハッキリと自覚できたからである。
そんな、萎みゆく、失礼な私の、この目と、そのお客さんの、その目が、たまたまパチリと合う。
カタカタカタカタ。
なにやら、頭の中の保存データを片っ端から検索している様子。
カタカタカタカタ。
しばらくの間、お互い、見合ったまま立ち尽くす、ふたり。
カタカタ、カタ、タッタッタ~タッ。
彼の目が、キラリと光る。
「あ~」
んっ?
「Aくんの~、友だちの~、・・・、やんな~」
光ったかと思われたその直後に発せられた、その、Oosacan (大阪人)な「やんな~」は、私のフリーズした心身を一気に溶解する。
「あ~、Aくんの~、友だちの~、・・・、ですよね~」
ほぼ同時にペコリと軽く頭(コウベ)を垂れ合う、おじさん、ふたり。
想定外の再会に膨らむ感動の中で交わされる、「お久しぶりです」と「久しぶりやんな~」。
何年ぶりだろう。
すると、背後から、「すみませ~ん、今夜はも~、店じまいさせてもらいます~」、と、親父さんの、大きい声だけれども、充分に申し訳なさそうな、声。
「ほんまかいな」
「申し訳ありません~。このあと、ちょっと~」
「こんど、よせてもろたとき、なんかオマケしてもらわなな~、たのんまっせ」
「もちろんです。これに懲りず、また~お越しください~」
そんなこんなで、「ガッカリ」感から一気にV字回復した、かなり失礼な私と、ココの居酒屋の親父さんに見事に振られてしまった、実に久しぶりのOosacan (大阪人)な彼とで、ちょいと今宵は、はしご酒、と、洒落込むことにあいなったのである。(ヨシッと、つづく)