はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と九十二
「マメニ マメアジノナンバンヅケ」②
「うわっ、完璧ですね」
「だろ~」
ともすれば、食する側を、食する相手を、選びがちな食材であるにもかかわらず、あたかも、向かうところ敵なし、で、あるかのような、そんな、万人に友好的な風情を、その豆アジは、その全身から迸(ホトバシ)らせている。
「ホントに美味しいです」
「だろ~。ゼイゴやらエラやらワタやらを丁寧に取り去る。サッとひと煮立ちさせたピリ辛甘酢漬けダレ、に、片栗粉でカラリと揚げ焼きしたその豆アジをジュワッと投入。ドコからドウ見ても、旨いモノにならないわけがない」
なぜか、突然、あの、居酒屋の親父さんの特製ナスの煮浸し、が、再び、頭に蘇る。
「なぜ、出汁をひく、と、言うのですか」
「旨味をひきだす、から、の、ひく、です」
「引き出す、ですか」
「そう、ひきだす」
ついでに、親父さんとのそんな懐かしのやり取りまで、リアルに蘇る。
「豆アジのいいトコロを思いっ切り引き出して、引っ張り上げてくれていますよね」
「だろ~」
「まさに、授業をつくる、ですね」
「ん?」
「授業をつくる、こと、と、似てはいませんか」
「んん?」
「実にマメな、豆アジの南蛮漬けづくり、に、授業をつくる、ことの、その原点があるような気がしたものですから」
「マメな豆アジの南蛮漬けに、授業づくりの原点が、か~。なるほどな~。そこまで誉められると、ちょっと、こそばゆくて、くすぐったいけれど、なんとなく、ソレ、わかるような気がするよ」
気を良くした私は、もう一口、ソレを、口の中に放り込む。(つづく)