お会計②
その建てつけの悪さを際立たせるようなガタガラガタガラ~という音の中に、あの(ただならぬ)Aくんの気配が漂う、そんな気がした。と、そのときは、紛れもなく、そう思ったのである。
そして、ソレなりに年齢を重ねてきたせいか、瞬時にピントが合う、などいうコトが、極めて難しくなりつつある私の視力も、ソレに関係する神経やら筋肉やらをフル稼働させたことで、どうにかこうにか、その扉を、その扉あたりを、かなりの精度で、解像度で、捉えることができていたのである。
「お久しぶりです」
私の口の周りのそこかしこの筋肉は、完全に、その「お久しぶりです」を発するためにスタンバっている。準備は万端だ。
4分の1ほど開けられたその扉の隙間。
バッチリ、ピントは合っている。大丈夫だ。
いよいよ、Aくん、登場。間違いない。
ヌルリと店内を覗き込むその顔。
「お久しぶりです」
と、まさに、発しようとした、そのとき、私の目が捉えたAくんは、あの「Aくん」ではなかったのである。(ガクッと、つづく)