ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.656

はしご酒(Aくんのアトリエ) その九十七

「カンジョウテキ!」③

 う~ん、・・・なるほど。このところ巷でよく聞かれる「ひびかない」というヤツか。

 ひびかない。

 たしかに、響かない。

 クールに語られれば語られるほど、ホットであるはずのメッセージの中身までがクールなモノと思われてしまう、というその危険性は、この私でさえ感じる。

 すると、奥から、お盆の上にカタカタとナニやら乗せて、Aくんが舞い戻ってくる。

 「これこれ、これだよ」

 どれどれ、どれだよ、と、心の中で突っ込みを入れつつ、お盆上に目をやる。

 「ちょっとだけでいいから、キュッとやってみてよ、テキーラのライム割り」

 Aくん、細い縦縞模様がやたらとカッコいい、そのガラスのお猪口の少量のテキーラにライムをジュジュッと絞り入れると、スルリと私の前まで滑らせる。

 爽やかなライムの香りの向こう側にドスンとアルコール度数の高さが鎮座しているようで、恐る恐るほんの少しだけ口に含む。

 「ワアッ、美味い!」

 「だろ。感情的にも感情的なりの意地がある。その意地を感じないかい、そのテキーラのライム割りに」

 う~ん、・・・申し訳ないが、ソコまでは感じない。

 するとAくん、お猪口を目の前までもち上げて、ご満悦感丸出しで叫ぶ。

 「メキシコ万歳。ビバ、メキシコ、カンジョウテキ~ラ!」

(つづく)