はしご酒(Aくんのアトリエ) その九十七
「カンジョウテキ!」③
う~ん、・・・なるほど。このところ巷でよく聞かれる「ひびかない」というヤツか。
ひびかない。
たしかに、響かない。
クールに語られれば語られるほど、ホットであるはずのメッセージの中身までがクールなモノと思われてしまう、というその危険性は、この私でさえ感じる。
すると、奥から、お盆の上にカタカタとナニやら乗せて、Aくんが舞い戻ってくる。
「これこれ、これだよ」
どれどれ、どれだよ、と、心の中で突っ込みを入れつつ、お盆上に目をやる。
「ちょっとだけでいいから、キュッとやってみてよ、テキーラのライム割り」
Aくん、細い縦縞模様がやたらとカッコいい、そのガラスのお猪口の少量のテキーラにライムをジュジュッと絞り入れると、スルリと私の前まで滑らせる。
爽やかなライムの香りの向こう側にドスンとアルコール度数の高さが鎮座しているようで、恐る恐るほんの少しだけ口に含む。
「ワアッ、美味い!」
「だろ。感情的にも感情的なりの意地がある。その意地を感じないかい、そのテキーラのライム割りに」
う~ん、・・・申し訳ないが、ソコまでは感じない。
するとAくん、お猪口を目の前までもち上げて、ご満悦感丸出しで叫ぶ。
「メキシコ万歳。ビバ、メキシコ、カンジョウテキ~ラ!」
(つづく)