箸休め
「イイナマコ イイマナコ イキテルアカシ」②
しばらくして目の前に置かれた小皿には、キュートなナマコが合わせ酢に気持ち良さそうに浸かって、コチラ側の私たちを覗き込んでいた。「ワタシタチ、イイナマコヨ~」とでも言いたげな、そんなナマコの表情である。
「ナマコには目がない」というだけあって、Aくんのお箸は、すでにもうあと数センチメートルというところにまで迫っていた。
そんなナマコ危機一髪の状況下で、私はほぼ無意識に、ナマコのマナコを探していたのである。でもやはり、ナマコのマナコは見当たらない。「やっぱりナマコには目がないですね」と、しつこくAくんに最終通告をする。
するとAくんは、実に美味しそうにナマコを口に含みながら、目一杯の満足顔で、この私に語り掛けるのである。
マナコが見当たらないナマコには、「目ヂカラ」も「マナコヂカラ」もないのだろうけれど、それでもそれを上回る「ナマコヂカラ」がある、と。
ほとんどワケがわからないAくんの「イイナマコのナマコヂカラ」論ではあるけれど、ナマコに目がないとか、あるとか、といったそんなこととは全く関係なく、それぞれにそれぞれの光輝く「〇〇ヂカラ」があるのかもしれないな~、などと、なんとなく、思い始めていた私なのである。(つづく)