ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.33

箸休め

「フニオチルール」

 数日前の会議でのこと。

 たいていは、〇〇さんの「なにかご意見があれば」というお決まりの〆(シメ)のコトバで閉会となる。「なにかご意見があれば」などと言われても、「ハイ!」、と、軽々しく挙手なんてできるわけもなく、いつものようにボンヤリとしていたら、なぜかその日は、少し様子が違っていた。

 〇〇さん、ナニを思ったのか、唐突に、こう言ってのけたのである。

 「腑に落ちましたか?」

 ん?、ふ、腑に落ちましたか~!?

 ボンヤリとしていたこともあって、予想外のその〆のコトバに、おもわず面喰らい、なんとなく動揺もしてしまう。

 ご意見、なんて、ましてや、代替案、なんて、考えもつかない。けれど、どうもそのまま受け入れるには抵抗がある。ナニかが妙に引っ掛かる。にもかかわらず、代替案がないのなら「おだまり!」、みたいな、そんなムードが常に漂っているものだから、誰もナニも言わないし、ナニも言えない。そして、いつもの〆のコトバで、いつものように幕が下ろされる。

 それゆえ、不意を突いてきたこの 「腑に落ちましたか?」に、おもわず面喰らい、なんとなく動揺もしてしまった、というわけだ。

 さらに、面喰らいついでに、ナニを思ったか、この私までもが、小さな声ながら、なんと、「腑に落ちません」などと呟いたりしてしまったものだから、そんな自分自身にも面喰らって、動揺して、おまけに、全身の毛穴という毛穴からジュルジュルと「後悔」までが滲み出てきたりもして、一気に滅入る。

 しかしながら、と、同時に、おそらく永遠に縮まることはないだろうな、と思っていた〇〇さんとの距離が、ほんの少し縮まったように感じられたのも、紛れもない事実。

 いつもなら、間違いなくそのまま素通りしていた〇〇さんも、その時だけは、私の思いと同様に、「さすがにソレは、なんとなく腑に落ちない」と感じたのだろう。ソレまで、〇〇さんとは価値観も考え方もナニもカも違うと勝手に思い込んでいただけに、その想定外の一言が、真夏の炎天下、突然吹き抜けていった爽やかな風のように思えた。そして、その風は、ジュルジュルと滲み出ていた後悔を、サラサラに乾かしてくれたのである。

 そんな予期せぬ心地よいシンクロに、暫し、酔いしれる。

 そうだ、そうなのである。

 ナニかが気になる、ドコかが怪しい、ドウしても腑に落ちない、というような、そんな時には、そうした捨て置くわけにはいかないないモロモロが、一人ひとりの「腑」にストン落ちてくれるまではナニがナンでも結論を控える「フニオチルール」が、必須なのではないか。

 そう、フニオチルール。

 このルール、会議のみならず、いかなる場面において、取り返しがつかないようなトンでもない過ちを、未然に防ぐためのスペッシャルなルールである、と、考えれば考えるほどグングンと、マジで思えてくる。(つづく)