ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.13

向付け その弐

「シャニカマエテ モノモウセナイ」

 ずっと、「斜に構える」の、その意味がわからなかった。

 わからないのに、Aくんに、「そう斜に構えずに」などと、言ったりもしていた。

 この、斜に構える。

 ある剣道の達人(本人は、「おちょくらないで」と否定していたが、私から見れば、トンでもなく達人なのである)が言うには、ほんの少し隙(スキ)をつくり、相手をコチラの懐(フトコロ)に導き入れて、撃つ!、という、必殺の「かまえ」なのだそうだ。もちろん、諸説あるのだろうけれど、その達人はそう力説する。つまり、斜に構えたあとには、必ず、「撃つ!」がなければならない、というわけ。

 しかしながら、現代社会の中で、実際に「撃つ!」などというコトをしてしまうと、さすがにイロイロとヤヤこしくなりそうなので、この場合の「撃つ! 」は、「モノ申す!」で充分。

 そう、「モノ申す」。

 「撃つ!」をも凌(シノ)ぐ言霊(コトダマ)パワーで、腐敗臭を放つこの社会の闇に、会心の爪痕を残してくれるに違いない、はず。

 と、思いたいのだけれど、な、なんと、この「モノ申す!」もまた、結構、難しかったりするのである。

 もう、「モノ申せない」。

 一般ピーポーの魂には、すでに、モノ申すための余力なんて、残っていないようだ。

 だから、誰も、斜になんか構えない。必殺の構えなのに。

 となると、Aくんは、斜に構えていていいのかもしれないな。

 そうだ、斜に構えていて、いい。いや、是非、斜に構えていて、ほしい。

 次の一撃の、その予感が、Aくんの魅力であり、ソレこそが、彼の「熱さ」なのであろうから。

(つづく)