はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と七十七
「ヨセバイイノニ ウッタエルワケヨ」
そんな、バリアイランドでの懐かしの♪ノーウーマン・ノークライ。ひょっとしたら、その曲が、Aくんに、その、ミュージシャンを思い起こさせるキッカケになったのかもしれない。
またまたAくん、唐突に、ある、大好きだったミュージシャンのことを語り始める。
そのミュージシャンが、よせばいいのに訴えるわけよ。グッと斜に構えて、反体制的な匂いまでプンプンと漂わせながら、「戦争反対!」、とね。
戦争、反対。
当然、軟弱メディアな「TV(テレビ)」あたりは、彼に声を掛けにくくなるわけで、たとえ、多くのコアなファンがいるとはいえ、どうしても露出は減り、それなりに収入も減る。
そんな、一人で貧乏くじを引いているとしか思えない彼に、ある若い音楽ライターが、よせばいいのに問うたわけよ。
「なぜ、わざわざ戦争反対を訴えるのですか」
すると彼は、クールにこう言ってのける。
「平和だから大好きな音楽をやっていられる。平和だからこその音楽さ」
平和、だからこその、音楽、さ。
大好きだったミュージシャンということもあるとは思うけれど、彼のその言葉、ず~っと、忘れられないままだ。
「だから、反戦を、平和であることの大切さを、訴える。至極、当たり前のこと」
当たり前の、こと。
そう言って彼は、控え室に消えていった、らしい。チャンチャン。
そう一気に語りまくったあと、Aくんは、自らトクトクと注ぎ入れた淡路島のプチプチを、グビリとやる。
音楽と、芸術と、平和と。政治と。そして、戦争と。か~。
その若い音楽ライターは、その時、いったい、ナニを思ったろう。(つづく)