先付 その四
「ブナンミン」
そこかしこのアレやコレやを、まずまず無難にこなしながら大海原を漂流する一派を、Aくんは、「ブナンミン」と呼ぶ。
「無難にこなす」、「無難にこなせる」。ソレはソレで、充分な能力のような気もするけれど、無難にこなすことを信条とする「ブナンミン」を、あまり良しとはしないようだ。
一度、Aくんに聞いてみたことがある。
Aくんは、「すいませ~ん、も~いっぽ~ん」、と、空になったビール瓶を高々と持ち上げたまま、ユルリと顔だけをコチラに向けてこう言った。
「無難に、の背後に怯(オビ)えが見え隠れする。怯えは萎縮を生む。労働者にとって萎縮は敵だ!」
う~ん~、萎縮は敵か~、そ~くるか~、などと、ソレなりに感心していたら、若さが爆発し続けているような威勢のいい新人のお姉さんが、フォント3割増しほどの「ドン!」という、これまた威勢のいい音を立てて、キンキンに冷えた瓶ビールを私たちのテーブルに置いて立ち去っていったのだ。あの時のあの、「委縮」とは真逆の威勢のいいお姉さんは、今頃どこでナニをしているのだろう。きっと、今もどこかの居酒屋で、元気と笑顔とエナジーとを、思いっ切り爆発させているのだろうな~。(つづく)