先付 その五
「マニュアリスト」
以前、Aくんが「マニュアラー」と呼んでいた若者たちも、だんだんと年を重ねて、立派な「マニュアリスト」として成長した、という。もちろん、コレもまた、ストレートな誉め言葉ではないと、私は思っている。
ちなみに、先ほどの「ブナンミン」だが、その性格上、立派な「マニュアリスト」にならなければならない、らしい。
もちろん、「マニュアリスト」には「マニュアリスト」なりの長所も、あるにはあるのだろうけれど、その短所に、弱点に、見事なまでにその長所は掻き消される。つまり、臨機応変なオールラウンド対応力に欠ける、というのである。
しかしながら、私は思うのだ。
その臨機応変なオールラウンド対応力に自信がもてない者にとって、実に有り難い指針のような役割を、マニュアルは担っているのではないだろうか、と。
でも、Aくんは、そんな私の消極的ともとれる考えに対して諭(サト)すように、こう宣うのである。
「誰でも最初は失敗だらけだけれど、その失敗から学んだモノの数が多い者が、結局は強い!」
わかります、わかりますとも。
だけど、私は更に思うのだ。
その失敗に、その失敗だらけに、耐えられない、潰れてしまいそうになる、という、そんなシャイな人間も、数多くいるんじゃないか、と。
おそらくAくんも、そんなに強くはないと思う。でも、そんなAくんよりもウンと弱い者がいる。そのコトを忘れるわけにはいかない。(つづく)