はしご酒(Aくんのアトリエ) その六百と三十四
「ナニサマ?」
「圧倒的弱者が、圧倒的強者に対して、好き嫌いとか敵味方とか損得とかとは関係なく、ただ、「いくらなんでも、もう、黙っているわけにはいかない」という思いから、やっと声を上げることができた、にもかかわらず、そんな圧倒的弱者に向けて、好き嫌いやら敵味方やら損得やらの呪縛から解き放たれないピーポーたちが、妙に、ヤタラと使いたがるフレーズ、ってのがあるわけよ」、とAくん。
呪縛から解き放たれないピーポーたちが、ヤタラと使いたがる、フレーズ、とは、いったい。
そのフレーズ、私なりに秒速で、アレコレ思い起こしてみようと試みる。とくに匿名性三昧のネットの世界では、そうしたアレコレ、溢れ返っている。と、思ってはいたものの、あらためてどんなモノが、と、思い起こそうとしても、そう簡単には思い起こせない。
「ソレが」
グッと身を乗り出す。
「ナニサマ?」
なにさま?。あ、あ~。
「なにさまのつもり、の、なにさま。問答無用の殺し文句ですよね」
「殺し文句?。ん~、ちょっと違うような気もするが。その思いを、魂を、もぎ取ってしまう、という意味では、まんざら的(マト)外れでもないか」
「勇気を振り絞って声にしたその熱き思いを、『あなたのその立場でエラそうに言うんじゃないよ』と、力付くで、乱暴に、根こそぎ引き抜いてしまおうとするのですから、やっぱり、殺し文句だと思います」
「あっ」
ん?
「そういえば、ある知人がある権力者の悪行に苦言を呈しまくっていると」
んん?
「その場にいた者から『ナニサマ?』、と」
「揶揄された、わけですね。で、その方はどうされたのですか」
「間髪入れずに言い返したらしいよ」
おっ。
「『国民サマだ』、ってね」
お~、国民さま、か~。
「いいですね、その、国民さま」
「国民サマが強者たちの悪行にモノ申してナニが悪い、と、いうわけだ」
なるほど、なるほどな。
職業も、性別も、年齢も、その他モロモロも、一切関係なくどんな立場であろうとも、全ての国民さまが、権力者の、強者の、悪行にモノ申せる国こそが健全な国なのだと、心底、思う。(つづく)