ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1125

はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と五十六

「ロウガイ?」

 「ろうがい」

 えっ。

 「ナンともカンともな響きだとは思わないかい」

 たしかに。

 「数多くのピーポーたちの人生を、命を、奪った、あの、結核菌による労咳(ロウガイ)も、老齢化による老害も、ドチラも、ズンと、重い響きではありますね」

 「その、前者の労咳は、さすがに、もう、限りなく死語に近いようだけれど、後者の老害は、ココにきて、結構、頻繁に耳にする」

 老害、か~。

 ひょっとしたら、先ほどの「誰も気が付かなかったあの手口に学んだらどうかね」も、その老害というヤツなのかもしれない。

 「その老害という言葉、僕が年をとったということもあるとは思うけれど、けっして、気分のいい言葉ではない」

 「老、の、害、ですからね~。使われ方によっては、差別の臭いさえ、してくるかもしれない」

 「するする、間違いなくプンプンとする。アフリカのどの国だったか、その国では、たしか、一人の老人の死は、一つの図書館が無くなったに等しい、とまで言われていたと思うのだけれど。まさに、その、真逆だよな」

 つまり、老、なのか、個、なのか、か。

 「私は、老、ではなく、あくまでも、個。個による、個人による、害だと思います」

 「ほ~、老害ではなく、個害だと」

 「そうです、個、害」

 「高齢者の身としては、ちょっと、嬉しいかな」

 ホンノリ微笑むAくんの表情が、妙に可愛い。

 「その個人が、人生の中で、長い年月をかけて育んできたモノが、培ってきたモノが、育むべきモノでも培うべきモノでもなかった、だけのことだと思います。ナニを見て、ナニを感じ、ナニを考え、ナニを学び、年齢を積み重ね上げてきたのか。ソレが全て。もちろん、脳そのものに問題が起こったことによる場合もあるとは思いますが、ソレはお医者さんにお任せするとして、老齢化を、その『害』の原因だと決め付けるのは、やはり、差別的ですよね」

(つづく)