ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.984

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と十五

「ホショウナンテデキナイ アンゼンホショウ」

 「安全保障」

 ん?

 「トンでもなくヘビー級な四字熟語だよな~」

 たしかに。

 「そんな安全保障の、その、絶対に譲れない大前提。わかるかい」

 んん?

 「ソレはね、ナニも起こっていない、ナニがナンでも意地でも起こさない、なんだよね。この大前提があってこその安全保障なわけよ」

 んんん?

 「だから、コトが起こってしまった、コトを起こしてしまった、その時点で、もうソレは安全保障じゃない」

 起こしてしまったその時点で、安全保障じゃ、ない?

 「しかし、それでも万が一にも起こしてしまったら?」

 「ソレを、戦争、と、いう」

 あ~。

 「ありとあらゆる外交の手を使って、命懸けで奮闘努力しなければ、安全保障なんて絵に描いたモチ。バカみたいに、売り手の言い値で兵器やら弾薬やらを大量に買い込んだところで、そんなモノ、こんな小さな島国の安全保障には、まず繋がらない」

 おそらく、そんなコト、この国のほとんどのピーポーたちにはわかっているコトだと思う。誰も、防衛費を倍にすれば安心、などとは思っていない。もちろん、十倍にしても同様だ。ただ、漠然と、とりあえず、そう信じたいだけなのだろう。

 「保障は、補償でも保証でもない。起こって、起こして、しまったそのあとのコトなんて想定しちゃいない。つまり、補償なんてできない安全保障、というわけだ」

 「補償なんてできない安全保障、ですか」

 「そう。補償なんてできない。保証すらない。愚かにも起こしてしまったその時点で、安全保障は幕を閉じる」

 ふ~。

 「逸(イチ)早く、ミサイルを撃ってきそうなその気配を察知して、その基地を破壊する。などと、真面目な顔をして宣っているおエライ方々がおられますよね」

 「あ~。あんなの、おそらく、本気でできるなんて思っちゃいないだろう。きっと、べらぼうな額でその攻撃システムを買わされるのが、オチ。ソレだけのことだ」

 「仮に、仮にです。仮にそんなコトができたとして、ソレって、私の感覚では、ドコからドウ見ても『開戦』宣言以外のナニモノでもない、の、ですけど」

 「その通り。開戦宣言以外のナニモノでもない」

 やはり、トンでもなくヘビー級だ。頑張って、Aくんに喰らい付こうとはするものの、気持ちはズンズンと重く沈んでいく。

 「過去からナニも学ばない。現在を思いっ切り軽んじる。未来を真剣に見ようとしない。そんな、そんな愚かなる権力者たちによって、戦争の幕なんてものは意外とアッサリと切って落とされる、というわけだ」

 な、なんというコトだ。

 救い難い愚かなる権力者たちによって、この国は、この星は、いつだって弄(モテアソ)ばれ、振り回され、掻き乱され、数多の、掛け替えのない大切なモノが、一気に、一瞬に、暴力的に奪い取られてしまう。(つづく)